植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは

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 10年にも及んだ異次元緩和を主導した黒田東彦日銀総裁に代わり、新たに中央銀行を統べるは経済学者の植田和男氏(71)。難題山積の中、異例の学者総裁にかじ取りを任せるのはなぜか。日銀、財務省、そして官邸の間で繰り広げられた「権力の興亡」、その内幕に迫る。【軽部謙介/ジャーナリスト・帝京大学教授】

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 10年ぶりに日本銀行の総裁が交代する。4月以降は、総裁・植田和男(東大名誉教授)、副総裁・氷見野良三(前金融庁長官)、同・内田眞一(日銀理事)という体制に金融政策のかじ取りが委ねられるが、人選の過程を検証していくと「日本の権力構造」に潜む問題点が浮き上がってくる。そしてそれは、日銀総裁とは、誰が、どのように、何を基準にして選ぶべきなのかという問いにつながっていく。

雨宮の言い分

 元首相の安倍晋三が撃たれた2022年の夏も終わろうとしていた。

 財務省の有力OB二人と日銀副総裁の雨宮正佳が都内の鮨屋でネタをつまみながら杯を交わしていた。アルコールがダメな雨宮も旧知の顔ぶれを相手に、よもやま話に花を咲かせた。

 佳境に入り黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁の後任人事に話が及んだ。このとき、後継の最有力候補といわれていた雨宮は二人にこういう趣旨の話をした。

――新総裁は、黒田体制の10年だけでなく1998年の新日銀法施行以降の「非伝統的」と呼ばれた金融政策全般を対象に点検・検証するべきだ。しかし、自分はそれを主宰する任にはふさわしくない。なぜならその大半に関与しているからだ――。

 確かに、雨宮は2000年代以降の量的緩和開始、異次元緩和実施、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)導入など非伝統的金融政策に深く関わった。その張本人が問題点を含めた検証を行ったら正当性が確保できないという言い分には一理あった。

各国の中央銀行総裁の多くは学者

 もう一つ、雨宮が強調したポイントがあった。それは「学者の起用に道を開く」ということだ。副総裁就任後、各国の中央銀行総裁が集まる会合に代理出席する機会も多くなった雨宮は、トップたちが部下の助けも借りずに難解なテーマを自分たちの言葉で議論している現場を目の当たりにしてきた。

 彼らの多くは経済学の博士号を取得している。ノーベル経済学賞を受賞したベン・バーナンキ(元米連邦準備制度理事会=FRB=議長)、ジャネット・イエレン(前FRB議長)、スタンレー・フィッシャー(元イスラエル中銀総裁)、ラグラム・ラジャン(元インド中銀総裁)らは世界的に名の通った学者でもある。中国や韓国でも中銀のトップは学者が務めている。

 しかも、中央銀行の国際的な連携は、リーマンショックを契機に、事務当局者同士が下で詰めて上に上げていくというやり方から、トップが電話で協議するというやり方に変わっている。問題は日本がそのコミュニティーに入っていけるかだ。経済・金融理論に対する深い知識や語学力など、日銀総裁には従来と異なる資質も求められる。

「優秀な学者が中央銀行トップになるという国際標準を、日本でも実現するべきではないか」

 雨宮はこう言っていた。

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