「推し活」「沼落ち」に「デジタルドラッグ」… 脳内麻薬依存症からの脱出法とは? 世界的権威二人が警告

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偉大なるものの存在を信じたい欲求

レンブケ メタバースへの期待を見ていると、人は偉大なるものの存在を信じたい、ひれ伏したいのではないかと感じてしまいます。

「願いをかなえたい」という欲求を満たすために人間は昔から宗教やスピリチュアルなものを信じてきたわけです。もちろんいい面も悪い面もありながら、そうしたものの必要性は確実にあった。今、ザッカーバーグがやろうとしているのはそこでしょう。「現実ではできないけれど、ここでならなんでもできる」のがメタバースですよね。でももちろん彼は神ではない。

ハンセン 非常に興味深い。

レンブケ 例えば雨に降られた後、暖かく安全な家の中で安らぐ――幸せなことですよね。そんなささいなことでも、人は宇宙の偉大さや自身のちっぽけさを知るきっかけになったりします。

 そうした“偉大さの前にひれ伏したい”人間の欲望が、リアルと地続きではない仮想空間に向かった時、なにを受け取ることになるのでしょう。実際にはそこは“願いがなんでもかなう場所”でも“真に偉大な場所”でもありません。あくまで人間が創造した危うい虚像でしかない。

 わたしはむしろ、世界から逃げ出すのではなく、現実世界の中に没入することで本当の癒やしが見つかる――と思うのですけどね。

「知ること」で救われる

ハンセン ある種の盲信や宗教化に関しては、わたしは「脳科学」にも思うことがあるのです。

 脳科学が説く多くの真実は、極端に言えば2千年前から人間が知っていたことです。わたしはギリシャ哲学のストア派が好きで、今でも年に1度はマルクス・アウレリウスを読み返して患者さんに話したりするのですが、あまりピンときてもらえない。でも同じことを“ドーパミン”という言葉を使って説明すると、「なるほど!」となる。

レンブケ 現代社会では科学が宗教の役割を果たしているのかもしれませんね。研究者・科学者たちがかつての神官のようになっていて。

 効率性重視で、現代の知識レベルに応じた知見を「手っ取り早くわかりたい」、昔ながらの宗教では現在の化学や物理からすれば古すぎる、ということかもしれません。最近のアメリカでは「スピリチュアルは信じるけど無宗教」という人が多いですよ。“究極の真実”を知りたいという欲望自体は残っているのでしょう。

ハンセン 確かに。20世紀にはファシズムやコミュニズム、リベラリズムといった「大きな物語」が語られましたが、それらは一つ一つ地に墜ちて、今ではリベラリズムすら息も絶え絶えと言っていいでしょう。宗教離れも進みました。

 その結果、真空状態になってしまっていますよね。信じられるものがない状態。そこへ地震や疫病が襲ってくる。そうした“真空状態”に今は脳科学がハマっているのかもしれませんね。だから多くの人がレンブケさんやわたしの本を読む。ただそれは「知ることが救いになる」と知っているからではないでしょうか。

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