ステージBと診断された61歳「前立腺がん患者」の告白 屈辱的な激痛の針生検、医師の言葉に有頂天になったことを後悔

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医師の説教

 現実逃避を続けるうちに4月になった。去年と同じように健康診断を受け、その結果が郵送されてきた。

 目を通すと、PSAは11・86まで上昇していた。遂に数値が2桁になった。男性もさすがに不安を覚えた。だが再びネットの検索に没頭し、現実逃避を続けた。

「6月になり、いつものように前立腺がんについて検索していました。すると2月に西郷輝彦さんが前立腺がんで亡くなったという記事が表示されたのです(註)。何気なく読んでいると、急に強い不安に襲われました」

 PSAの数値が10を越すと前立腺がんの可能性が高くなることは男性も知っていた。

「それどころか、私の場合は11・86です。泌尿器科を受診すると、担当医に叱られました。『もしがんだった場合、食べ物や健康法で治るはずはありません』と説教され、自分の浅はかさを痛感しました」

 精密なMRI検査を受け、8月に大学病院で手術による生検を行うことが決まった。27日に入院したが、コロナ禍で病室に閉じこめられたような状態だったという。29日の朝に手術が行われた。全身麻酔をかけられ、目が覚めると病室に戻っていた。

「生検の結果は9月に説明してもらうことになりました。その頃、私の心境に変化が生じていました。冷静さを取り戻したというか、ネット検索に明け暮れていた日々のことを『あれはおかしかった』と振り返れるようになったのです。そして『PSAの数値を考えれば、前立腺がんの可能性は極めて高い』と覚悟を決めました」

2回目の説明

 だが、がんの可能性は自覚できても、精神状態が安定したわけではない。むしろ「担当医からがんを告げられたら、冷静に説明を聞くことができるのだろうか?」と心配になった。

「担当医はいつも丁寧に説明してくれます。最後に『何か質問はありますか?』と訊かれ、『大丈夫です』と答えるのがパターンです。しかし、もし前立腺がんなら、色々と質問したほうがいいのは言うまでもありません。とはいえ、何を質問していいのかさえよく分からないのです」

 男性は考えに考え、そして「前立腺がんだと告知されたら、『もう一度説明をお願いします』と言おう」と心に決めた。

「大学病院を訪れると、担当医が『検査、お疲れ様でした。結果は、がんです』と私の目を見つめながら告知しました。覚悟していても、頭は真っ白になりました。丁寧な説明が始まりましたが、何度か意識が飛びました。最後に『何か質問はありますか?』と訊かれたので、『すみません、もう一度説明をお願いします』とお願いしました。担当医は嫌がらず、説明を繰り返してくれました。2回目は落ち着いて聞くことができました」

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