リスキリングで「中高年の再戦力化」を図れ――後藤宗明(ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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デジタル人材作り

佐藤 すでに日本での成功例もありますか。

後藤 名古屋の西川コミュニケーションズという会社があります。1906年創業の老舗印刷会社で、電話帳などを刷っていたんですね。でも電話帳は今後はなくなっていくだろうということで、2013年からリスキリングを始めたんです。

佐藤 それは随分早いですね。

後藤 AT&Tと同じで、自社の事業がディスラプトされるという危機感がありますから、真剣に取り組まざるをえない。従業員400名超の会社ですが、まず社長自らがAIのG検定(一般社団法人日本ディープラーニング協会が実施する、AI・ディープラーニングの活用リテラシー習得のための検定試験)を取得し、いま80人が合格しています。この会社では就業時間の20%をリスキリングに充てていいことになっていて、「学びを止めると給料が下がる」を合言葉にしているのです。

佐藤 もう企業文化として定着しているわけですね。

後藤 私がお話をうかがった時点では、G検定だけでなく、IT・セキュリティー、ウェブ系、マーケティング系など資格取得の総数は、492件でした。

佐藤 従業員数より多い。その後、会社はどのように生まれ変わったのですか。

後藤 現在はAIを使った業務導入支援やデジタルマーケティング、3Dのコンピューターグラフィックスを提供する会社になっています。

佐藤 いままさに必要とされているデジタル人材を作り出し、その分野へ事業を展開されたのですね。

後藤 デジタル人材不足はほんとうに深刻です。一昨年、私もアメリカで人を雇おうとしたのですが、デジタル分野で営業ができる人だと、もう年収2千万円くらい用意する必要があるんですよ。

佐藤 その上、外から人を雇う場合は、その人がそれ以上の条件をよそで示されたら、また移っていってしまいますしね。

後藤 企業文化が合わないということだけでも辞めてしまいます。ですからリスキリングで、デジタル人材を社内育成した方がいい。そのコストは採用の6分の1といわれていますし、社内で育てた方が募集するより期間も短くてすむ。

佐藤 しかも業務内容も会社の状態もわかっています。

後藤 アメリカのフィラデルフィア市役所が、デジタルのポジションで人を募集したんだそうです。でも給料が安くて応募者がやってこない。それで外から採用することを諦め、デジタルのコンサルティング会社を巻き込んで、2年かけて市役所職員をデジタル化人材に育てることにした。それで3人ではありますが、デジタル化人材が誕生しました。

佐藤 ロールモデルがあれば、続く人は出てきます。

後藤 その通りで、同市はこれをさらに広げていこうとしています。

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