昭和最大の不倫スキャンダル「西山事件裁判」で西山太吉氏を追及した検察官が晩年に語っていたこと

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 元・毎日新聞記者の西山太吉さんの訃報を聞き、自分がこれまで聞いてきたことを整理しながら、西山事件について書いてみようと思った。西山さんは、1972年の沖縄返還時の日米密約電文など機密書類を、外務省の女性事務官だった蓮見喜久子さんから入手したことが国家公務員法違反に問われ、有罪判決を受けたジャーナリストである。二人は今で言う「ダブル不倫」関係にあった。3年半前に91歳で死んだ私の父・石山陽(よう)は、西山さんの一審法廷に立った検察官だ。一方、共同通信編集委員だった私は西山さんとテレビ番組で共演するなどしたこともある。西山さんとは「親子2代のお付き合い」だった。(ジャーナリスト・石山永一郎)

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公安調査庁長官、運輸審議官を歴任した石山陽氏

 西山事件を描いた澤地久枝さんの著書『密約―外務省機密漏洩事件』(岩波現代文庫)第6章〈雷雨の法廷〉に、こんなシーンが出てくる。

〈大野弁護人 本件と関係ありません。
石山検察官 それは本件につきまして特に情状に重要な関係がありますので、これが関係ないことはありません。
西垣道夫弁護人 どういう情状と関係あるのですか。
石山検察官 本件の犯状に関係ないということになれば、なぜここに被告人の蓮見がすわっているか、その理由について釈明していただきたい。
西垣弁護人 それは検察官が不当な起訴をしたからです。

 弁護団では最年少にみえる西垣弁護士の発言の語尾は、法廷内の爆笑でかき消されてしまった〉

 検察官が西山さんに、蓮見さんから入手した日米密約の電信文をそのまま社会党の衆議院議員に渡した手法について、どう考えているかと聞いた後のやり取りである。弁護人が“本件と関係ない質問をするな”と返したのに対し、検察官は、関係あると応酬している。

 この「石山検察官」こそが、私の父・石山陽(よう)である。1974年に出版されたこの有名なノンフィクションに、私は父が登場することを長らく知らなかった。50代になって、沖縄の米軍基地問題を取材するようになり、さすがに「密約」は必読と購入し、このくだりを読んで「あ、親父だ」と気づいたのだ。

 陸軍士官学校卒、東大卒の父は、この後、公安調査庁長官になった。さらに福岡高検検事長を務めて検察庁を退職後、運輸審議官も務めている。私にとっては「ごりごりの保守」で長くそりがあわなかった。公安調査庁長官時代は、衆議院予算委員会で日本共産党について「暴力主義的破壊活動を行う団体」ときっぱり断言し、共産党から攻撃を受け続けていた。

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