全土で抗議デモ、富裕層はシンガポールへ移住…嫌われる中国共産党の統治スタイルに逆行する動きが

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地方分権的全体主義の負の側面

 中国共産党の統治のあり方そのものにも疑念が生じている。

 米スタンフォード大学の許成鋼客員研究員は、中国の統治制度を「地方分権的全体主義」と定義している(1月27日付日本経済新聞)。

 中国共産党は1950年代初期、政治・経済を含むあらゆる分野の支配権を中央に集中させる全体主義の制度をソ連(当時)から導入したが、50年代半ば以降、「郡県制」という伝統的な統治手法を加え、その制度を改めた。

 個人崇拝などで最高指導者の絶対的権威を確立する一方、行政の立案・運営の権限のほとんどを最高指導者が任命する地方の指導者に与えるものだ。これにより、中国共産党はソ連より強固な一極集中の体制をつくり上げることに成功した。

 この制度の下、地方の指導者は最高指導者の意向に沿った取り組みを競い、切磋琢磨してその実現に邁進した。

 大躍進や文化大革命という悲劇の原因になった一方で、改革開放という華々しい成功事例も生まれた。地方政府間の激しい競争が民間セクターの発展を可能にし、政治改革を伴わずに中国は高度成長を長年にわたり享受することができたからだ。

 だが、こうした競争は環境破壊や所得格差の拡大、不動産バブルといった問題をもたらし、今や負の側面の方が大きくなっている。

政府に失望する富裕層

 半世紀以上にわたり続いた地方分権的全体主義が限界に達しつつある中、習氏はさらに事態を悪化させる方向に舵を切るようだ。

 中国政治を長年研究してきたテイー・クォ・ブルネル大学ビジネススクール上級講師 らは「習氏はソ連型の全体主義を復活させようとしており、支配を正当化するための経済発展すら放棄しつつある」と警鐘を鳴らしている(2月16日付ニューズウィーク)。

 そのせいだろうか、習氏に対する信頼の失墜が進んでおり、金融と貿易の中心である上海でこの傾向が特に顕著だ(3月1日付ブルームバーグ)。上海市民は匿名を条件にしながらも、習氏と新たな右腕となる李強氏に対して不信感を露わにしている。

 米国の人権監視団体フリーダムハウスによれば、昨年第4四半期に中国のほぼ全ての地域で抗議デモがあった。政府への抗議を示す国民の行動が大胆になっていることの表れだ。

 政府に失望した富裕層はシンガポールへの移住を加速させている。

「一党支配を強いる代わりに、市民の経済的な繁栄を実現する有能な統治を約束する」という、中国共産党の正当性を支える社会契約が急速に失効しつつあるように思える。

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