「資格」を通じ自信を持って働ける若者を育てる――中川和久(大原学園理事長)【佐藤優の頂上対決】

  • ブックマーク

Advertisement

内定後の入社準備まで

佐藤 私は母校の埼玉県立浦和高校で教えたこともあるのですが、最初に一科集中学習をすることは非常に効果があると思います。落ちこぼれた子に自信をつけさせるのに、私は社会科からやっていました。社会科は頑張れば短期間で偏差値が70くらいまで上がります。そこで一つ自分の陣地を作ると、他の科目もオセロみたいに反転させていくことができる。

中川 その通りです。まず自信をつけさせる。そして次に何でもできると思わせる。これが私どもの指導の第1段階になります。

佐藤 それを終えると、どう進んでいきますか。

中川 資格試験後の7月には、長野県菅平か静岡県富士宮の研修所で、2泊3日のビガー(活力)研修を行います。これで、教え合っていた生徒たちは生涯の友達になります。そして夏休みが明けたら、第2段階の「専門学習期」「実践期」です。さらに高い目標を目指して猛勉強させる。後半の実践期には、校外学習、インターンシップなどを通じて、目標となる就職先で必要とされる実践力を身に付けてもらいます。

佐藤 その時期は並行して就職活動も始まりますね。

中川 そうです。担任の先生による就職指導を行い、マンツーマンの面接を繰り返して、進路や企業選びをサポートします。だいたい2年次の夏までには就職が決まりますね。

佐藤 そこで終わりではない。

中川 幸せな就職をするには、会社の仕事も知らなくてはいけません。だから就職が決まった後に大原では第3段階として「入社準備期」を置いています。入社後にすぐに活躍できるよう内定企業と連携を図りながら、実践教育を行うのです。

佐藤 内定先から業務内容を教えてもらうのですか。

中川 はい。企業からも役所からも業種、仕事内容を教えてもらい、それがこなせるように準備します。これを「プレ・キャリア・プログラム(PCP)」と言っています。この時には、仕事に応じてクラス替えもします。

佐藤 大学生なら6月あたりに内定が出ると、後は遊ぶ時間になってしまいます。特に卒業論文のない学生はほとんど勉強しません。

中川 私どもも、かつてはそうでした。でも1990年にバブルが弾けてから、就職率がかなり下がったんですよ。そこで、採用されるには企業や役所の求めるスキルを身に付けさせなくてはいけないと、このPCPを始めました。監査法人、税理士法人に内定していたら経理の実務、医療ならレセプト(診療報酬明細書)が書けるようにし、マーケティングやプログラミングのコンテストなども行います。そして即戦力になるよう導いていく。

佐藤 即戦力であると同時に、同期のトップ集団に入ることになるでしょうね。余裕を持って仕事ができますから、辞めるという選択肢がなくなる。

中川 その通りです。辞める直接の原因は「叱られるから」なんです。でも叱られないから辞めない。

佐藤 若い人は叱られることに慣れていないですからね。また、初めて就職する若い人には、就職先がブラック企業なのか教育の厳しい会社なのか区別がつきません。私は学生たちに、その職場の先輩を、勤続年数で5年ごとに区切って25年先まで見るよう、アドバイスしていました。そこに一人でも尊敬できる先輩がいれば、ブラック企業でなく教育の厳しい企業で、一人もいなければブラック企業か、そこに全く合わないということだから、転職した方がいい、と。

中川 就職はちゃんと正社員で入るとともに、その就職先、仕事内容とのマッチングが非常に大切です。いまは人手不足で売り手市場になっていますから、質も吟味できます。そして入社して3年は退職しないようにするのです。

佐藤 私も3年は辞めるな、と学生に指導しています。3年以内に辞めると、次の会社は前と比べて7割くらいの賃金になるんですね。あるいは賃金が同じだったら、労働強度が増す。多くの場合は労働強度が少し増して賃金が少し下がります。

中川 もっとも20歳や22歳の選択ですからどうしても会社と合わないこともある。その際は、また勉強して自分に合う仕事を見つければいい。資格の講座には社会人も数多くいますが、みなさん、非常に一所懸命に勉強されていますね。

次ページ:校訓は「感奮興起」

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。