「資格」を通じ自信を持って働ける若者を育てる――中川和久(大原学園理事長)【佐藤優の頂上対決】

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最初の2カ月が重要

中川 内閣府がいまの若者の現状を調査していますが、「自分自身に満足しているか」という問いに対し、「そう思う」は10.4%しかいません。アメリカは57.9%、イギリスは42.0%、お隣の韓国でも36.3%ですから、日本は非常に低い。実際に企業からも、新入社員が次々に辞めていくという話を聞くことが多い。

佐藤 3年以内の離職率は大卒で3割、高卒では4割近いといわれていますね。

中川 その原因は何かと聞くと、仕事内容ではなく、人間関係や労働環境が理由だというんですよ。

佐藤 そもそもいまの若者は自己肯定感が低いわけですから、一度何かでつまずくと耐えられない。

中川 よく日本の国力について、生産性の低さうんぬんが話題になります。そのために私どもは資格を基準に、若者にやり方を教え、能力を伸ばして、働けるようにしているのです。

佐藤 そこにはやはり大原独自のメソッドがあるのでしょうね。

中川 はい。大原学園の教育プログラムは3段階4期に分けて構成されています。一番大事なのは最初の2カ月間で、「成功体験期」と呼んでいます。入学してくるのは自信のない若者たちです。彼らをやる気にさせる。このため2カ月間で資格に挑戦させます。「経理・経営・販売」や「公認会計士・税理士」コースなら日商簿記2級を、「医療系」コースなら医療請求事務2級や医療秘書実務2級を目指します。

佐藤 簿記2級というと、工業簿記が入ってきます。企業価値の計算もできるようになりますから、かなり難しい。

中川 だから勉強させます。ものすごく勉強させる。たぶん最初の2カ月は人生で一番勉強する時期になります。日中の講座で学び、午後3時くらいからは宿題を出す。宿題といっても、その場で行う。

佐藤 その日のおさらいですね。

中川 当然、できない子がたくさんいます。先生はできるまで待つ。学生たちが「あ、わかった」となるまで一緒にいます。これが重要です。そして帰宅し、次の朝、登校すると、門の前で校長以下、担任たちが彼らを待っている。学生たち一人ひとりに声をかける。そしてまた授業をして3時から宿題をする。その繰り返しです。

佐藤 そうすると勉強の習慣が身に付いてくる。

中川 だいたい2週間も経つと、「やればできる」という気持ちも芽生えてきます。そうしたら思いっきり褒める。どんどん褒める。すると不思議なことに、登校時にきちんとあいさつをしたり、ご両親への「ありがとう」といった言葉が自然と出てくるようになります。

佐藤 生活態度も変わってくるのですね。

中川 はい。そしてこの2カ月間の終わり頃になると、もう先生が教える必要がなくなるんですよ。授業はしますが、宿題は生徒同士教え合うようになる。みんなで団結して受かろうとするんですね。

佐藤 その2カ月でどのくらいが合格しますか。

中川 簿記2級は年に3回試験があり、最初は6月です。それに4月入学の学生たちの6割くらいが合格します。そして次の11月の試験では、ほぼ全員が受かります。6月に8割程度の生徒が受かっていた時期もあります。

佐藤 私は同志社大学神学部で教えていた時、できれば簿記2級を取るよう勧めていましたが、2カ月間で合格するのは、大学生にとってもかなり高いハードルです。しかも簿記の知識以前の問題として、全体的に数学の力が落ちていますから。

中川 確かに高いハードルだとは思います。だからいっぱい勉強させるんです。

佐藤 簿記は、現在の経済を読み解くための基本言語です。GDP(国内総生産)も基本は簿記です。大原学園はもともと「大原簿記学校」としてスタートしていますから、やはり簿記には格別の思い入れがあるのですね。

中川 ええ。ただ、いまの社会は簿記を軽視しているところがあります。要は、帳面付けだろうと思っている。大学では経済学でも会計学でも簿記を教えない。

佐藤 ただ少し変わってきた面もあると思いますよ。東京大学の学生の中にも簿記をやる人がいます。また、ハーバード・ビジネススクールにMBAを取りに行くと、講義では教科書なんか開けないんですね。やることは企業価値の計算ばかり、つまり簿記をやっているんです。

中川 簿記は人気が下がっていますから、その重要性に気が付き、人気が戻ってくるとうれしいですね。

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