「馬鹿にしないでよ。私は全部知っているんだから…」妻が激怒しても、マリアさんとの関係は“不倫ではない”という40歳夫の身勝手な考え方

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「危うい関係」は続き

 店が以前のように営業されるようになると、宣之さんはホッとした。だが、マリアさん目当ての客が少しずつ増えているとママから聞かされたとき、自分の中でメラメラと燃え上がるものがあった。

「でも恋愛ではない。そう自分で決めつけました。だって僕は変わらず妻を愛していたし、家族はうまくいっていたから。ママの手前、店に行かないわけにもいかない。月に1回くらいは行っていました。あるとき、マリアが『最近、食事に連れていってくれないのね、さびしい』と甘えてきた。やっぱりかわいいんですよ。翌日の約束をして帰ろうとしたら、ママに『あなたのことだから大丈夫だと思うけど、マリアを傷つけないでね』と釘を刺された。お見通しだったんでしょうね。ママは、僕自身より僕の気持ちを把握していたのかもしれません」

 店が休みの日、マリアさんの自宅に直接行くこともあった。「危うい関係」は続いていた。だが客が増えてくるにつれ、マリアさんの気持ちが微妙に引いていくような気がしてならなかった。

「食事に行かないかと言っても乗ってこない。これは誰かいい人ができたに違いない。そう思いました。彼女が幸せならそれでいいと鷹揚に構えていたけど、心の奥では焦っていたんです。自分の気持ちに気づかないふりをしていただけだったのかもしれない」

 そこで引けばよかったのだ。もともとはっきりした恋愛関係があったわけでもないのだから。だが彼は深追いした。マリアさんが休みの日に自宅に行き、ドアをガンガン叩いたのだ。

「彼女はドアを開けてくれたけど、少し迷惑そうだった。ごめんと謝りながらも、マリアと会えなくて寂しかったと言ったら、『宣之さんから卒業したほうがいいと思うの』と言うんです。頼りすぎた、家庭のある人なのにと。僕が離婚すればいいのかと思わず言ったら、そういうことではないと言われましたが。彼女自身も『別れたいという言葉を使うのはヘンだと思う。お店には来てほしい』と。そんな身勝手な言い草があるかと思いました。今思えば頭に血が上っていたんでしょうね。僕は彼女を押し倒してしまった。抵抗されました。すると突然、部屋に男が入ってきたんです。僕より若くて、ずっといい男でした。マリアが彼に抱きついてこっちを見ていた。わかったよ、ごめんと引き下がり、部屋を出ていくしかありませんでした」

 店のママの顔や部長の顔が浮かんだ。今後も店を使うことはあるはずだから、ママに迷惑をかけるわけにはいかなかった。

 それから数日後、店に行くとマリアさんは消えていた。

「何日か前から、マリアの様子がおかしかったのよ。あなた、事情を知らないのと聞かれたけど、なんとも答えようがありませんでした」

 あの男とどこかへ行ってしまったのだろうか。マリアさんとの関係は1年足らずだったが、いなくなってみて初めて、宣之さんは自分が彼女にこれまで感じたことのない複雑な愛情を抱いていると認めざるを得なかった。

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