米国で急速に高まる中国脅威論 土地取得制限の動きで思い出す110年前の“危険な法律”

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「邪悪な政府を隣人にしたくない」

 米国で「中国の主権侵害」が問題視される中、中国資本による土地の買収を阻もうとする動きが全米で広がっている。

 バージニア州では共和党のヤンキン知事の強い後押しで、中国を念頭に置いた「敵対国」への農地の売却を禁じる法律が成立した。

 サウスダコタ州では議会が中国など外国資本による農地の取得を厳しく審査する委員会を設ける法案を準備している。保守強硬派で知られるノーム知事は「外国の邪悪な政府を隣人にしたくない」と言い放ち、「中国共産党と戦うための青写真を描き、模範を示す」と鼻息が荒い。

 テキサス州でも中国を念頭に置いた不動産取得を制限する法律が成立 する見込みだ。

 連邦議会でも農地への投資に関する対米外国投資委員会(CFIUS)の審査機能を強化する法案の成立を目指す動きが生じている。

 米農務省によれば、2021年末時点の海外の個人・団体が保有する米国の農地は全体の約3%。国別ではカナダ、オランダなどが上位を占め、中国のシェアは外国人保有の1%弱にすぎない(2月21日 付日本経済新聞)。

 中国勢力の土地取得の動きは「針小棒大」だと言っても過言ではない。「コロナ禍で生じた反アジア感情がさらに強まる」との懸念が出ているにもかかわらず、「中国脅威論」の嵐が各地で同様の動きを推し進めている形だ。

 中国政府は米国の動きについて「市場経済の原則と国際貿易のルールに反している」と猛反発しており、米中両国間の新たな火種になりつつある。

 思い起こされるのは1913年にカリフォルニア州で成立した外国人土地法だ。この法律は日系人を閉め出すことが目的だったことから「排日土地法」と呼ばれていた。

 猖獗を極める「黄禍論」を背景に1924年にはいわゆる「排日移民法」が米連邦議会で成立し、日米関係の悪化は後戻りできない状況になってしまった。

 バイデン政権は中国との関係改善を模索しているが、「気球撃墜」「土地取得制限」の流れは危ういと言わざるを得ない。「歴史は繰り返す」かどうかは定かではないが、米中関係は今後急速に悪化してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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