米国で急速に高まる中国脅威論 土地取得制限の動きで思い出す110年前の“危険な法律”

国際 中国

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「私は今後10年の我々の政策が次の100年を作ると信じている。中国共産党のハイテクを駆使した暗黒世界に勝たせるわけにはいかない」

 このように力説したのは、米連邦議会下院に設置された中国の脅威に取り組むために立ち上げられた特別委員会(中国特別委員会)の委員長である共和党のギャラガー議員だ。

 ギャラガー氏は2月28日に開かれた最初の公聴会の冒頭で危機感を露わにし、中国との競争について「21世紀の生活がどうなるかを決める実存的な闘いだ」と強調した。

 委員会の民主党トップのクリシュナムルティ議員も「過去30年間、民主党も共和党も中国共産党を過小評価してきた。貿易と投資がインド太平洋の民主化と安全保障の強化につながると考えてきたが、むしろその逆が起きた」とギャラガー氏に同調した。

 中国特別委員会は超党派の議員で構成され(共和党13人、民主党11人)、今後2年間で中国の経済力や軍事的な懸念を検討し、政策提言を行うことになっている。

 米連邦議会は民主・共和党間の対立が激化しているが、中国問題は両党間で合意が成立する数少ないテーマの1つだ。

気球事件が呼びおこした“忌まわしき記憶”

 中国への対抗策を議論する米議会の動きに対し、中国政府は3月1日「偽情報をもとに中国脅威論をまき散らし、中国共産党を中傷することをやめるべきだ」と反発した。

 米連邦捜査局(FBI)のレイ長官が新型コロナウイルスの起源を巡り「中国の武漢ウイルス研究所から流出した可能性が高い」と発言したことについても、「実験室からの漏洩が不可能であることは中国と世界保健機関(WHO)の合同専門家チームが調査して得た科学的な結論だ」と反論した。

 米中関係は2月4日にサウスカロライナ沖で中国から飛来した気球が撃墜されたことが仇となって、再び緊張の度合いを高めている。

「民間の気象観測用気球だ」と主張していた中国側のメンツは丸つぶれとなった。

 撃墜後、中国側は残骸の返還を求めたが、米国側はこの要求を無視。回収した残骸を分析して「偵察用気球だった」と断定した。

 この事案は関係者の脳裏に60年前の「忌まわしき記憶」を蘇らせた。その記憶とは1960年5月1日に米偵察機U2がソ連領空内で撃ち落とされた歴史的大事件(U2撃墜事件)のことだ。

 米国側は当初「U2は気象観測用の航空機であり、誤ってソ連領空に入った」と主張していたが、ソ連側は拘束したパイロットにテレビの前で自白させ、米国側に恥をかかせた。

 1960年初頭の米ソ関係が雪解けムードにあり、フランス・パリで米ソ首脳会談が予定されていたが、この事件のせいで中止となった。その後、米ソ関係は急速に悪化し、1962年にはキューバ危機が勃発、米ソ両大国は「あわや核戦争」という最悪の事態の一歩手前まで追い詰められた。

 今回の気球事案により、直後に予定されていたブリンケン米国務長官の訪中が取りやめとなり、米中外交当局は関係改善の糸口をいまだに見つけられないでいる。

 米連邦議会下院は2月9日、中国の偵察用気球について「あからさまな主権の侵害だ」と非難する決議を全会一致で採択した。

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