稲葉NHK新会長が職員へ異例のメッセージ 前田・前会長の“銀行員的改革”はなぜ不評だったのか

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NHKから専門家がいなくなる

 前田体制は大胆な組織改革も行った。これにも局内から不満や疑問の声が上がり続けている。

 NHKは長らく放送総局(約3500人)の下に報道局と制作局などが置かれていた。さらに報道局の下部には取材センター、ニュース制作センターなどが置かれていた。制作局の中にはバラエティをつくるエンターテインメント番組部やドラマ番組部などがあった。

 だが、前田体制は2022年4月に放送総局を廃止。新たにメディア総局を設けた。その下に制作局に代わるクリエイターセンターを設けた。「縦割りを廃するため」などと前田体制は説明した。

 それにより、制作者たちが畑違いの番組も手掛けるようになった。専門性が削がれつつある。

 また、大河ドラマ、連続テレビ小説以外のドラマは外注化が進んでいる。やはりコストカットが第一の目的だ。

「これではエキスパートが育ちにくく、番組の質が保てなくなる恐れがある。NHKが受け継いできた制作力が伝承できるのだろうか」(別の職員)

大掛かりな編成・番組改革も裏目に

 前田体制は大掛かりな編成・番組改革も行った。これも裏目に出ているのが明らか。

 前田体制スタートから1年半後の2021年10月第1週の視聴率はこうだった。まだ編成・番組改革の規模は小さかった。

〇プライム帯(午後7時~同11時):個人4.9%(世帯8.9%)
〇全日帯(午前6時~午前0時):個人3.0%(世帯5.7%)

 翌2022年4月、大胆な編成・番組改革が行われた。「ガッテン!」などを打ち切り、平日午後10時45分から同11時30分を「若年層ターゲットゾーン」とした。民放ですら、あり得ない。

 その大改革から半年が過ぎた同10月第1週の視聴率は次の通りだ。

〇プライム帯:個人4.1%(世帯7.3%)
〇全日帯:2.7%(個人4.9%)

 週単位の平均値でこの数字だから、視聴率の下げ幅はかなり大きい。前田体制は受信料を1割下げたものの、NHKを観る人が減ったり、満足度が落ちたりしたら、値下げも意味が乏しい。

 NHKは誰のものかというと、視聴者のものである。収入のほぼ全てが受信料で、それによって組織や機器、施設を整えてきたのだから。株式会社と株主の関係に近い。それなのに前田体制は視聴者ファーストで改革を行ったとは思えない。

 また、株式会社であろうが、組織を支える社員の暮らしは守らなくてはならない。サラリーマンならご存じの通りである。前田体制は受信料値下げを図ろうとするあまり、過度なコストカットに走り、職員の生活をないがしろにしたのではないか。それでは番組づくりへの影響は避けられない。

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