双子は寿命もソックリなのか? 判明した「寿命」遺伝率の意外な真実

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 前編では、一卵性双生児のケースで、遺伝子が趣味や趣向にまで、人生に大きく影響を与えていることが判明した。

 では人生の長さ、つまり寿命についてはどうなのか。

「うちは長寿の家系だから」なんて物言いはよく耳にする。つまり寿命も遺伝する、という考え方だ。

 しかし、双子と寿命に関する多くの研究は、こうした考え方を否定する。

 ニコラス・ブレンボー著『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体―』をもとに見てみよう。(以下、同書より引用)【前後編の後編】

デンマークの双子研究

 双子と寿命に関する優れた研究の一つは1870年から1900年までにデンマークで生まれた双子を対象とするものだ。この研究により、寿命のいわゆる「遺伝率」は男性が26パーセント、女性が23パーセントであることが明らかになった。

 他の研究でも同様の結果が出た。アーミッシュでは25パーセント、ユタ州では15パーセント、スウェーデンでは33パーセントだ。細かな数値はそれほど重要ではない。肝心なのは、遺伝率が100パーセントより0パーセントに近く、低いことだ。

 遺伝率は、ある特徴や疾患がどの程度遺伝によって決まるかを示す専門的な尺度である。例えば、ある特徴の遺伝率が100パーセントの場合、個人間に見られるその特徴の違いはすべて遺伝によるものだ。

 仮に身長の遺伝率が100パーセントで、ある人が別の人より背が高ければ、その身長差は両者の遺伝的な違いだけによる。

 一方、身長の遺伝率が0パーセントなら、身長差は環境だけが原因だと言える。つまり、寿命の遺伝率が15~33パーセントであることは、寿命の違いの大半は遺伝以外に原因があることを語っている。

「長寿の一族」の真実

 双子研究は今も続いているが、遺伝と環境の寿命への影響を調べるための新しい研究も始まっている。一例を挙げれば、グーグル傘下のアンチエイジング研究企業のカリコ(カリフォルニア・ライフ・カンパニー)は、家系調査や遺伝子検査サービスを提供する企業、アンセストリー・ドットコムと共同研究を行なった。アンセストリー・ドットコムが所有する1億以上の家系図には、さまざまな一族の寿命に関するデータが含まれており、もちろん分析することができる。

 同研究においても、寿命の遺伝率は低いことが確認された。遺伝は多くの形質に強く影響するが、寿命にはあまり影響しないのだ。

 カリコの研究により、寿命に関する遺伝の重要性は双子研究が示唆するよりさらに低いことがわかった。また、夫と妻(通常、遺伝的つながりはない)はそれぞれの異性の兄弟姉妹とよりも寿命が近いこともわかった。全体的に見ると、一族の寿命が長いほど、結婚によってその家系に入った人の寿命も長くなった。

 配偶者と寿命が近いことは、人が自分に似た人と結婚しがちであることに由来するのだろう。もちろん、パートナーになる人の寿命を知ることはできないが、食事や運動の好みは似ているだろう。経済力も同じようなレベルで、身体的な特徴も似ている可能性が高い。

 つまり、人は総じて自分に似ている人と結婚しやすいので、結婚によって結びついた人々の寿命の長さは近くなる。こうして「長寿の一族」に見える家系が生じた結果、寿命は実際よりも遺伝で決まるように考えられがちなのだ。

 似た人同士が結婚する影響を差し引くと、寿命の遺伝率は10パーセント未満に下がる。

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 前編では双子の研究から遺伝子が驚くほど人生に影響を及ぼすことを見たが、実は長いスパンの「寿命」という側面で考えるとそれほど大きな影響はない、ということになる。

 もちろん病気などが遺伝することもあり、また実際には似たような環境で育ち生活するケースも多いので、結果として寿命も「遺伝」すると見られがちだが、親の寿命が短いからといって必ずしもヤケになる必要はないということだろう。

『寿命ハック』の中で、ニクラス氏はこうも述べている。

「わたしたちの寿命は遺伝で決まるわけではないのだ。寿命を延ばすために何かしたいと考えている人にとって、これは朗報だ」

デイリー新潮編集部

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