ルックス差別も何のその 驚異の生命力を誇る「奇跡のネズミ」 世界中の長寿研究者が注目

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 ルッキズムの問題点が指摘されるようになった昨今、お笑い芸人であっても「ハゲ」いじりには慎重になりつつあるとか。

 そんな中、見た目からひどい名前をつけられたネズミが世界中の研究者から熱い注目を浴び続けているのをご存じだろうか。

 ハダカデバネズミ――その名の通り、いわゆるネズミと比べると体毛が目立たず、ピンクの地肌が露出しているように見える。かなり「出っ歯」が目立つ。ハムスターなどとはちがい、あまり「カワイイ」とは言われなさそうだ。

 しかしこのネズミは、長寿の研究者から熱い注目を浴びている。というのも、「身長と寿命」の一般的な法則から外れた存在だからだ。一般に、大きな動物は小さな動物よりも長生きするというのが定説である。クジラ、ゾウ、ヒトはネズミよりも長生きだ。

 ところが、ハダカデバネズミはこの法則を超越している。デンマークの分子生物学者、ニクラス・ブレンボー氏の著書『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体―』をもとに見てみよう(以下、同書より引用)

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見た目は悪いがすごい生命力

 長寿の研究者がとりわけ注目している動物がいる。

 このアンチエイジングのスターは東アフリカ生まれだ。といっても、広大なサバンナの風景にその姿はない。しかし地面を10センチほど掘ると、この小さな動物がトンネルの中を一目散に逃げる姿を見ることができるかもしれない。そのトンネルの全長は何キロにもおよぶ。

 ハダカデバネズミは、名前が示すその外見のせいで科学者たちにあまり好かれていない。おぞましい悪夢から抜け出してきたようなネズミが走り回るさまを想像してみよう。体毛はなく、ところどころに長い毛が生えている。肌はピンク色でしわくちゃだ。トンネルを掘るのに使う前歯は口の“外に”あり、目は小さな黒い点のようで視力がほとんどない。

 見かけはそんなだが、彼らには仲間がたくさんいる。東アフリカのサバンナには、そのトンネル王国がある。彼らは20~300匹のコロニーを形成し、トンネルを掘り、維持し、敵や食料を捜して常にその中をパトロールしている。

 トンネルの本部には食料保管庫や寝室、トイレもある。本部は特別な個体、すなわち女王の居室でもある。彼らのコロニーは通常の哺乳類の群れとは異なる。この小さなネズミは“真社会性”を持つ唯一の哺乳類なのだ。真社会性とはアリやハチなどの昆虫で知られる社会構造である。コロニーの中で繁殖できるのは女王だけで、他のメンバーは子を産まない労働者か兵士、女王が愛人として選んだ数匹の雄だ。

 老化の研究者がハダカデバネズミを大いに好むのは、このネズミが体のサイズと寿命のルールにあてはまらないからだ。成獣の体重は約35グラムで、通常のネズミとほぼ変わらない。それにもかかわらず、ハダカデバネズミは30年以上生きる。一方、一般的なネズミの長寿記録はおよそ4年だ。

 これらの特徴の重要性を理解するために、次のような想像をしてみよう。あなたは老化を研究する研究者だ。何を研究したらインスピレーションを得られるだろう。第一の選択肢は長生きする動物だ。そうすれば長寿の秘密がいくらかわかるだろう。

 そこで、あなたはこう考える。長生きする動物といえば……クジラ? 研究室で飼うのはちょっと難しい。ゾウ? 同じくたいへんだ。トリカゴで鳥を飼おうか。それでは動物を虐待することになる(おまけに鳥は哺乳類ではない)。ハダカデバネズミはどうだろう。長生きするか? イエス。研究室で飼えるか? イエス。わたしたちと同じ哺乳類? イエス。ここまではすべてOKだ。

 次の問題は、どの動物と比較するか、である。第一の選択肢は、寿命の短い親類だ。両者を比べたら、寿命の差の理由を説明できるかもしれない。この件についても、完璧だ。最も研究されている実験動物といえばマウスとラットだ。寿命はハダカデバネズミに遠く及ばないが、偶然にも親戚である。そういうわけでハダカデバネズミは老化研究の対象とするのに最適なのだ。

がん知らずの肉体

 すでに数十年前から、世界中の研究者がハダカデバネズミを研究している。彼らの報告によると、若い個体と年老いた個体はほとんど見分けがつかないそうだ。もっとも、ハダカデバネズミの場合、若く見えるためのハードルはかなり低い。もともと禿げていて、しわくちゃなのだから。とはいえ、この観察には興味を引かれる。老化が遅いことは、科学的に“証明されている”だけでなく、“目で見てもわかる”のだ。

 また、ハダカデバネズミはがんに耐性があり、人工的にがんを誘発させてもがんになりにくい。これまでに何千匹も研究されたが、腫瘍が見つかったのは6匹だけだ。これは小型動物では驚異的で、実験用マウスでは70パーセントにがんの兆候が見られる。一般に、どの種も20~50パーセントががんになる。人間も例外ではなく、多くの先進国でがんは心疾患をしのいで第一の死因になっている。しかし、この東アフリカ生まれの小さく地味な齧歯類は、がんを飼い慣らす方法を発見したのだ。まさに奇跡的な生き物であり、老化の秘密をひもとく物語において中心的な役割を担っている。

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 そもそも「ハダカ」「デバ」はあくまでもヒト基準の美意識によるネーミングであって、当の本人(ネズミ)にとっては知ったことではない。アンチエイジングの先端を走っている彼らからすれば、そんな評価はどうでもいいのかもしれない。

『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体―』より一部抜粋・再構成。

デイリー新潮編集部

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