人口減少でディストピア化する日本 豊かに暮らすための「四つの方策」とは

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人を「コスト」として扱った

 ここで新興国とは競合しない分野へとシフトする選択肢もあったが、競争力を取り戻すべくコストカットに踏み込んでいった。生産拠点を新興国に移すと同時に、日本人の人件費にも手を付けたのだ。技術者までをリストラし、新規学卒者を非正規雇用者にしてしまった。こうして就職氷河期世代を生み出したのである。人を「資本」ではなく「コスト」として扱ったということだ。これは技術者の海外流出を招き、現在につながる日本企業の開発力の低迷をもたらした。

 若者の雇用を破壊すれば、将来の人生設計ができなくなる。結婚や妊娠・出産を望めない人が増え、出生数の減少を加速させたのだ。企業が自ら「未来の消費者」を減らし、国内マーケットを縮小させるという自殺行為に走ったのである。当時の経営者の責任は重い。

日本の労働者に「割安感」

 これに対して、政府・日銀は「デフレを脱するには賃金が上がる環境を作らなければならず、それには物価を上げる必要がある」と考え、インフレ目標を掲げて異次元の金融緩和を行ってきた。しかしながら、国民の将来に対する不安がデフレを深刻化させている背景となっている以上、これではうまくいかない。

 民間エコノミストなどからは「賃金上昇のために必ずしもインフレは必要ない」との指摘が出ているが、物価高が賃金の上昇に結びついていない現状がこれを証明しているといえよう。

 デフレに対して有効な対策を打てず、むしろ日本企業がオウンゴールのように自ら多くの人々の雇用を破壊した結果、日本は総じて低賃金の国になってしまった。OECDのデータ(21年)では日本の平均賃金は34カ国中で24位にまで低下している。政府や経済団体の首脳は人口減少対策として外国人労働者の受け入れ拡大に前のめりになっているが、いまや日本人に「割安感」が出ている。すでに中国をはじめ海外企業が日本人を雇用すべく日本に進出するケースが出てきているのだ。技術力が高く勤勉な日本人が“優秀な外国人労働者”として経済成長が著しい新興国などに出稼ぎに行く時代へと、いつ転換してもおかしくなくなってきている。

 繰り返すが、新興国との競争にのめり込んで人件費を抑制するという日本企業の経営モデルは、国内マーケットの縮小をより速める。人口減少社会においてはやってはならないことの一つなのだ。

海外の投資家に見切りをつけられる

 将来の国内マーケットを縮小させるといえば、目立ち始めてきた国外での投資収益の獲得も同じだ。それ自体が悪いわけではないが、これを国内マーケットの縮小への対策として力を入れすぎることは危うい。収益が海外の子会社の内部留保となって国内に十分に還流しないだけでなく、こうした形で収益を得られることに味を占めてしまうと、人口減少の時代でも本業を成り立たせるための改革が遅れ、国内で良質な雇用が生まれづらくなるためだ。そうなれば、国内マーケットはさらに縮小する。企業だけ生き残り、日本社会が衰退したのでは意味がない。

 オウンゴールを繰り返し、実人口が減る以上に国内マーケットを縮小させていけば、外国が日本を見る目はより厳しくなる。そうなると、海外の投資家や優秀な人材が「日本の成長力」に見切りをつけ、日本はますます縮小する。円の価値も低くなり、エネルギーや食糧などの調達がままならなくなっていく。

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