梨泰院雑踏事故から3カ月  「韓国人記者」が明石歩道橋事故を直接取材 遺族宅で目にした「絶対に忘れられない」光景とは

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自ら韓国語訳

 ジョン記者が明石歩道橋事故の取材を思い立ったのは、筆者の記事を読んでのことだった。ソウルの事故を受けて、歩道橋事故を振り返る記事を『時事IN』から依頼されて執筆していたのだ。

「警察が雑踏警備より暴走族の警備に重点を置いたことや、誰かが押したという噂が立ったこと、ご遺族が『なんでそんな所へ行ったのか』と誹謗中傷されたことなど、歩道橋事故は梨泰院事故との共通点がすごく多いと思いました」(ジョン記者)

 先の白井さんは昨年夏に出版された『明石歩道橋事故 再発防止を願って』(神戸新聞社)の製作に尽力していた。当初、「本を持っていなければ差し上げよう」と話していたが、ジョン記者は既に韓国で取り寄せ、なんと400ページ以上の大著を自ら韓国語にほぼ全訳し、スマホに収めていた。

 ジョン記者は「遺族が最後まで諦めずに、できることを全部やってこられたことに感動した。雑踏事故という想像すらできなかった惨事をどう受け止めたらいいかまだわからない韓国の読者たちに、日本のご遺族の方々の戦いをぜひ伝えたい」と情熱的に語る。

取材で感じた日韓の違い

 ジョン記者はソウルの事故と歩道橋事故をどう比較するか。

「韓国の法律は日本とほとんど同じなので、法的争点はまったく同じだと思います(業務上過失致死傷の共同正犯)。韓国との大きな違いの一つとして、歩道橋事故では消防署の職員は誰も捜査を受けたり、起訴されていない。日本では雑踏警備は警察の仕事だとはっきり決まっているようです」

 ジョン記者とシン写真記者は、観光地を訪れることもなく寸暇を惜しんで取材する。彼女らは明石消防本部にある防災センターも訪れた。その日は休館日だったが、電話に出てくれた人の紹介で事故当時現場にいた消防官を取材、翌日には明石市役所の担当役人などを取材したという。

「あの日、現場に行った消防署や市役所の職員の方々にお話を聞けた。韓国では役所取材は申請が複雑なのに、デリケートな問題でいきなり行った我々に教訓を教えようとしてくださり誠意が感じられました」

 日本でも役所取材は敷居が高い。役人たちは記者根性に打たれたのだろう。

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