「罠の戦争」 草なぎ剛の般若のような形相をみて思い出した昭和の名優 登場人物の苗字に秘密

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健さんが草なぎを高く評価した理由

 なぜ、健さんは草なぎを高く評価していたのか。理由は「罠の戦争」の第1話を観ただけでも分かる。後半まで鷲津の表情はずっと穏やかだったが、よく観ると家庭内、議員事務所内、泰生を見舞った病院内では顔付きが全部違うのである。

 家庭内では頬が少し緩み、目付きもやさしい。議員事務所では顔に生気があり、心なしか精悍だった。病院内では憂いの色を強く漂わせていた。

 場面によって意識的に演じ分けているのではなく、鷲津の感情と自分の内面の同化が出来ているのだろう。演技に見えない演技をするための「メソッド演技法」を実践しているのではないか。体得が極めて難しいとされる技法である。

 孤独なトランスジェンダ―を演じた映画「ミッドナイトスワン」(2020年)の時も草なぎと役柄は一体化していた。上映早々から草なぎは主人公の凪沙にしか見えなくなった。だから凪沙に悲劇的な運命が待っていた後半になると、映画館内はすすり泣きの声に包まれた。嗚咽する人も珍しくなかった。観客の多くは草なぎが演じていることを忘れていたのだろう。

 凪沙役で草なぎは日本アカデミー賞最優秀主演男優賞やブルーリボン賞主演男優賞などを獲った。国内映画賞を総ナメにしたと言っていい。

 しかし、ジャニーズ事務所からの退所問題が影響し、6年も民放での主演連ドラがなかった。草なぎには痛かったが、民放ドラマ界も勿体ないことをした。

「罠の戦争」の話に戻りたい。犬飼は鷲津を脅した際、「秘書の代わりなんて、いくらでもいる」と高圧的に吐き捨てた。思い上がっていた。

 ここで脚本担当の後藤法子氏(55 )の意図の一端が垣間見えた。犬飼は「秘書という犬」を「飼っている」という考えの持ち主なのである。

 この作品は単に政界を舞台にした復讐物語ではないはず。ノーブレスオブリージュ(財産・権力・地位を持つ者は、それ相応の社会的責任や義務を負うという道徳観)を守れない強者と弱者の死闘を描く作品に違いない。

 犬飼のような強者は世間にもいる。鷲津は弱者の代表として代理戦争に挑むのだろう。鷲津が勝ったら、胸がすくはずだ。

 後藤法子氏はやはり草なぎが主演した「銭の戦争」(2015年)「嘘の戦争」(2017年)の脚本も書いた。3作で共通する特徴はテンポの良さ。「罠の戦争」第1話は9分拡大だったとはいえ、主な登場人物の紹介、鷲津が犬飼に復讐する理由、復讐の序章まで描かれた。

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