地方移住する仕組みを社会インフラにする――高橋 公(ふるさと回帰支援センター理事長)【佐藤優の頂上対決】

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増田レポートの衝撃

佐藤 20周年ですから、創立されたのは2002年ですね。私が東京拘置所に収容されていた頃です。

高橋 反対派の人たちを説得するのに、少し時間がかかりました。最後は電機連合会長の「面白いんじゃないの」との一声で決まった。そして、自治労時代に学校給食における米の消費拡大を手がけて以降、信頼関係のあった農協中央会に話を持っていって、参加してもらったんですよ。

佐藤 農業も高齢化や担い手不足が大きな問題ですから、お互いの思惑が合致した。

高橋 だからこの運動は連合と農協が車の両輪なんです。そして農協がやるとなれば、漁協、森林組合も加わってくる。そして連合として日経連に話を持っていったら、関心を示し一緒にやると言うんですね。それで設立参加団体に加わってもらった。

佐藤 当初はどのくらいの規模だったのですか。

高橋 私を含め事務局は5名でした。いまでこそ、このフロアには44都道府県1政令指定都市のブースがあり、それぞれ相談員もいるので90名程が働いていますが、最初は福島県や和歌山県など5県でした。相談に来る人も1日に20人~30人。50人も来れば、今日は多かったな、と思うくらいでしたね。

佐藤 いつから変わってきましたか。

高橋 一つは2008年のリーマンショックです。あの時は学卒者の約4割が希望する職業に就けなかったでしょう。それで若者たちが地方に目を向け始めた。そこから少しずつ増えていき、大きく伸びたのは、冒頭でも触れた「増田レポート」の2014年からです。2040年に896自治体が消滅する可能性があるというのは、ものすごく大きなインパクトがあった。

佐藤 政府も動き始めましたよね。

高橋 地方創生と言い出し、安倍政権下で「まち・ひと・しごと創生本部」ができました。それで補正予算が組まれたため、翌15年4月には、いきなり22県1政令市の移住相談ブースが設置されたんです。

佐藤 確かにいただいた移住者の動向を見ても、2014年あたりから相談件数がグンと伸びていますね。

高橋 2013年までは面談やセミナーなどは年間1万件に届いていない。それが2014年に1万2430件、2015年に2万584件、2016年には2万6426件となり、以後、増え続けます。

佐藤 現在はどのくらいですか。

高橋 2021年は移住相談が4万9514件あり、セミナーを562回開催しています。

佐藤 人気のある移住先はどこでしょう。

高橋 2021年の移住希望地ランキング1位は、静岡県です。2年連続です。静岡は東海道でしょう。昔から人の出入りが激しいので、よそ者に対して優しい土地柄なんですね。それに気候も温暖です。

佐藤 静岡県は、熱海・伊豆から沼津、静岡、そして浜松と東西に長く、それぞれ違う文化圏で、バリエーションが豊かですよね。

高橋 そう、移住先としての選択の幅が広い。それともう一つの理由は、政令市として唯一、静岡市がブースを出していることです。ここだけでだいたい中規模の県と同じくらいの相談件数がある。

佐藤 東京から新幹線で1時間ですしね。第2位はどこですか。

高橋 福岡県です。昨今のコロナ禍で顕著になったのは、東北地方なら宮城県、中国地方は広島県、そして九州なら福岡県で、月によっては周りの県の倍くらいの相談件数になっています。それはつまり、仙台、広島、福岡と、若者が仕事のあるところへ移住しようとしているからなんです。若い人は仕事がないと生活できません。ですから、その地方の中規模以上の都市を希望する。

佐藤 東京一極集中を緩和するには、田舎だけでなく、地方都市も重要になってきます。

高橋 その通りです。政令市の静岡市が結果を出しているので、これを他の政令市にも広げていきたいんですね。いま政令市は全国に20市ありますが、10市くらいが東京の受け皿になると、かなり変わってくると思います。

佐藤 その次の3位はどちらでしょう。

高橋 山梨県ですね。ここも上位の常連県ですが、なんといっても交通の便がいい。それと自然環境です。それに続く長野県、群馬県も同じ魅力があります。

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