伝説のバラエティ「風雲!たけし城」が今年復活 令和の“アマプラ”版に期待すべき理由

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作り手の意図を超え…

 さらに、この番組では作り手の意図を超えて挑戦者の情熱が独り歩きを始めている。そのきっかけとなった人物こそが、現在では「ミスターSASUKE」として知られる山田勝己である。ボンベ配送の仕事をしていた山田は「SASUKE」の第1回大会に参加して以来、その魅力に取り憑かれてしまった。

 次の大会が開催される保証も何もないのに、自宅に「SASUKE」のステージを再現したセットを製作し、トレーニングに打ち込むようになった。「SASUKE」に夢中になりすぎたことが原因でリストラされ、仕事を失ってしまった。それでも彼は「SASUKE」への挑戦をやめなかった。

 山田の常軌を逸した奮闘を見て、彼に続いて熱い魂を持った新しい挑戦者が次々に現れるようになった。いまや、「SASUKE」の常連組の間では「自宅に『SASUKE』のセットを作った」というのは珍しくもなんともない。山田は引退を表明してから、山田を師と仰ぐ者たちを集めて「山田軍団黒虎」という団体を旗揚げした。そこで指導者として後進の育成にあたっている。

 たかがテレビの一企画にすぎないものに人生を懸けている人々がいる。「SASUKE」は、回を重ねるごとに、彼らの生き様を楽しむ人間ドキュメントの様相を呈してきた。

「たけし城」で出場者たちはただゲーム感覚で楽しく遊んでいるようなところがあった。一方、「筋肉番付」ではプロのアスリートによる真剣勝負が行われていた。

「SASUKE」では、両方のいいところを取って「たかがゲームになぜか真剣に挑む人々」を描いたことで、そこにドキュメンタリー性が生まれた。地上波テレビの影響力が年々下がっていると言われるこの時代に、多くの人々を熱狂させている「SASUKE」という番組は、存在自体が1つの奇跡である。

 さらに、今年7月には「SASUKE」が五輪種目の候補になっているというニュースが報じられた。2028年ロサンゼルス大会から近代五種の中から馬術が除外されることになり、それに代わる競技として「SASUKE」のセットを使った障害物レースが採用される可能性が出てきたのだ。「SASUKE」の世界的な盛り上がりはとどまるところを知らない。

 そんな「SASUKE」の総合演出を務めてきた乾氏ほど、「たけし城」の復活企画を手がけるのにふさわしい人物はいない。単なる懐古趣味にとどまらない、新しい時代の「たけし城」は、「SASUKE」に劣らないほど見ごたえのあるものになるだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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