教育現場の著作物使用が問題視される理由 “著作権後進国”の行く末とは

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日本の「特異性」

 やや複雑な制度ゆえ、理解するには、まず教育現場の著作物使用に関する日本の「特異性」についての説明が必要だろう。

「日本の教育現場ではほぼ無条件で著作物が使われています。しかも、現状の調査もしていないので、どれほどの著作物が使われているかもわかっていない。著作権法35条が拡大解釈され、ひどい状況になっていると思います」

 と指摘するのは専修大学の植村八潮教授(出版学)だ。著作権法35条とは、著作物のコピーなどについて、本来は有償のところ教育機関においては、権利者に対し、無許諾・無償で行えると定めたものだ。学校の授業で先生から教科書以外の教材として本や雑誌のコピーが配られた記憶を持つ読者も多いだろう。それのことである。使用の範囲については、「必要と認められる限度」内で、売れ行きへの影響など「著作権者の利益を不当に害さない」程度、とされている。

著作権後進国

 ところが、現状はそれが守られているとは言い難く、多くの問題があるという。

「大学では本を1章丸ごとコピーして、100名を超える学生に配るということも耳にします。いくらでも著作物をコピーすることが可能で、35条のガイドラインを逸脱することが教育現場でまかり通っている。そもそも、海外では教育現場で著作物が使われた場合、対価が支払われるのは当然のことです。諸外国を見ると、アメリカやヨーロッパを中心に著作権者に対価が支払われており、多くの場合、それは行政予算、すなわち税金から賄われています」(同)

“著作権後進国”たる日本の場合は、と続ける。

「日本の教育行政は貧しく、文化庁にも力がないため、予算が獲得できない。だから、著作権者に補償金が払われず、著作物が使われても無償という、権利が制限される状況が続いてきました。要は“お国のため、教育のために我慢しろ”として、状況がこれまで改善されてこなかったのです」

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