韓国が西側陣営に戻らないのはなぜか 米中の間で右往左往し続けた尹錫悦の半年間

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「西側への回帰」を掲げて2022年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権。だが、中露への平身低頭ぶりは左派政権と変わらなかった。なぜ、民主主義国家の側に戻らないのか。韓国観察者の鈴置高史氏が考える。

人権でも西側離れ

鈴置:「韓国の西側離れ」はついに人権問題にも及びました。10月31日、国連総会第3委員会が中国・新疆ウイグル自治区での人権弾圧に対する非難声明を発表しました。米国、英国、日本、豪州など自由民主主義陣営の50カ国が名を連ねましたが、韓国は加わりませんでした。

 11月16日には国連総会第3委員会が、ロシアが併合したクリミア半島での人権問題に対する糾弾決議案を可決しました。賛成が78カ国、反対が4カ国、棄権が79カ国でしたが、韓国は棄権しました。2016年以降の評決で毎年、韓国は棄権してきましたが、「西側に戻る」はずの尹錫悦政権も姿勢を変えなかったのです。

 中央日報のイェ・ヨンジュン論説委員は対中非難声明への不参加に関し「GPSが故障すれば道に迷う」(11月29日、韓国語版)で「韓国は中国の圧力に屈した」と断じました。ポイントを訳します。

・問題はそれ[評決]に先立つ10月6日に、新疆ウイグルでの人権問題に関連する国連人権理事会の評決では賛成票を投じており、たった20余日で正反対の方向に転じたことだ。その間に何があったのか。
・11月15日にインドネシア・バリで開いた韓中首脳会談と関連付けて考えればその内幕が浮かび上がる。中国は首脳会談に対する確答を与えずに圧迫カードを活用したのだ。
・首脳会談を必ず成し遂げなければならない外交部の実務者の立場からすれば、さらに守勢に追い込まれたのだろう。同じ頃に訪韓しようとしたポーランド国防長官の専用機の領空通過も中国は拒否した。

外交的ブレが国益を毀損

 イェ・ヨンジュン論説委員はこの記事で、尹錫悦大統領が国連演説で表明した「普遍的価値と規範を重視する国政を基調とし、国際社会の人権に関する論議に積極的に参与する」との公約を破ったと批判しました。

 そして、批判の筆先をそこに留めませんでした。ウイグル決議で見せたように、外交的なブレが国益を大きく毀損する、とも警告を発したのです。

・明らかなのは、このように同じ事案に対し韓国の立場が大きく揺れれば、中国はもちろん国際社会によくない信号を送るしかない、という点だ。韓国は圧迫が通じる国だとの認識を中国に植え付けることになる。
・新疆ウイグルの人権に対する同様な機会が再び来るだろうが、その際に賛成・反対のうちどちらの立場を採ろうが、一度毀損した韓国の一貫性と信頼を回復するのはたいそう難しいであろう。少なくとも新疆ウイグルに関し、韓国はカードを一つ失ったということである。

GPSが壊れた韓国、それを叩く米国

――血を吐くような訴えですね。

鈴置:そう思います。見出しの「GPS」とは尹錫悦政権が内外に向け打ち出した外交目標「グローバル中軸国家」(Global Pivotal State)の英語の頭文字です。全地球測位システムの「GPS」も意識した名称で、韓国外交の舞台を朝鮮半島から一気に世界に広げるとの野心を込めています。

 だから、見出しが「GPSが故障すれば」なのです。イェ・ヨンジュン論説委員は羅針盤たるGPSがおかしくなっており、尹錫悦外交が迷走し始めた、と国の危機を訴えたのです。

 しかし、この訴えの後、韓国はまた大きくブレました。12月15日、国連総会でクリミア半島での人権問題に関する対ロ糾弾決議案がウクライナから提出されました。賛成82カ国、反対14カ国、棄権80カ国で可決したのですが、韓国は今度は賛成に回りました。

 「人道重視」という国際公約を守った、という点では「正しい方向への修正」なのでしょう。ただ、「姿勢がブレる韓国」という意味では状況はより悪化したのです。

 中央日報の「韓国、ウクライナ決議案『棄権→賛成』旋回…失うものが多かった」(12月17日、日本語版)は急旋回の理由に「棄権はGPSビジョンに合わないとの意見があったこと」を挙げました。でも、それは最初の表決のときから分かっていたはずです。

 韓国メディアからの批判はほぼありませんでした。イェ・ヨンジュン論説委員の記事は対ロ非難決議の棄権に関しても批判しましたが、メディアの中では異例でした。これから考えると、米国の圧力によって韓国は態度を変えた可能性が大きいのです。

 ウクライナ戦争の勃発以来、米国は韓国の対ロ弱腰外交を厳しく叩いてきました。半導体などの対ロ輸出規制に加わらないと見るや、韓国からの輸出には1件ごとに米国の審査を課しました。

 国務省が所管するVoice of America(VOA)は韓国を「愚か」「恩知らず」と口を極めて罵倒しました(『韓国民主政治の自壊』第3章第3節「『韓国は人権無視国家』と米国が認定」参照)。

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