アフガニスタン 日本人記者が「地下学校」に潜入取材 タリバンの女子教育禁止に広がる抵抗

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実はタリバンの子弟も…

 強面一辺倒にみえるタリバンの女子教育をめぐる施策だが、実は原則があいまいで揺れ動いており、政策の施行にも統一性を欠く。去年12月、タリバン政権のムッタキ外相は、全土34州のうち10州で女子の中等教育機関が開かれていると語った。タリバンは決して一枚岩ではなく、現在も内部で大きな亀裂と激しい駆け引きがつづく。それが国民の目にも明らかになったのが、今年の新学期での女子教育再開の取り消しだった。政府は以前から、3月23日に始まる新学年度から女子の学校が再開されると公式に発表していた。当日、1年ぶりの授業再開を待ちわびて登校した女生徒たちは、学校に着いてから突如帰宅せよと告げられたという。ニュースでは学校の入り口でショックのあまり泣き出す少女の映像が流れた。教師も寝耳に水で、教育省高官すら当日朝になって授業再開の取り消しを知った。この土壇場での方針転換は、指導部内での暗闘の激しさを物語る。

 タリバン内にも女子教育を認める声は少なくない。実は取材した「地下学校」にはタリバンの子弟も通ってきていると校長がそっと教えてくれた。治安当局はここで中学高校のカリキュラムを教えている実態をつかんでいたはずだが、女子教育を求める市民の声の大きさ、そしてタリバン内の女子教育容認派の存在も相まって、規制しにくい状況にあったと思われる。しかし今回、女子の大学教育まで否定する通知が出たことは、タリバン内で強硬な保守派の影響力が強まったことを示している。

 アフガニスタンでは小学校でも男女別学であり、女子児童は女性教師にしか教わることができないし、女性の患者は女医にのみ診てもらうことができる。だから、女性教師や女医など一定数の女性専門職は不可欠である。タリバンは政権内に高等教育省を置き、男女の教室を別にするなどの条件の下で、女子が大学で学ぶことを認めてきた。この「地下学校」には、大学進学を目指して勉強に励んでいた生徒が多い。今年10月に行われた大学入試では、この学校から25人の合格者を出したばかりだった。来春からの大学生活を楽しみにしていた少女たちの顔が思い浮かぶ。どんなにか悲しみ、怒っていることだろう。カブールでは今回の通知に対する女性たちの抗議デモが起き逮捕者が出た。また筆者には、通知が出た直後から市内の「地下学校」が次々に閉鎖に追い込まれているとの情報も届いている。女子教育をめぐるタリバンと市民のせめぎあいは一気に緊迫の度を増している。

高世 仁(たかせ・ひとし)
ジャーナリスト。著書に『拉致-北朝鮮の国家犯罪』(講談社)、『チェルノブイリの今:フクシマへの教訓』(旬報社)などがある。2022年11月下旬にはアフガニスタンを取材した。

デイリー新潮編集部

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