社内外の力を結集しクレーンで世界一を目指す――氏家俊明(タダノ代表取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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 都市部の駅周辺工事で、一夜のうちに立体交差する鉄道橋や歩道橋が付け替えられた、というニュース映像を記憶する人も多いのではないか。その工事に不可欠なのが、大型クレーンだ。タダノは建設用クレーンで国内50%、海外では20%のシェアを持つ。そして更なる成長を目指し、新たな挑戦を始めていた。

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佐藤 ひと昔前、タダノのクレーンはイースター島の倒れていたモアイ像を立ち上がらせて、大きな話題になりました。

氏家 テレビ番組でイースター島の知事が「クレーンがあれば、倒れたモアイ像を起こせるのに」とお話しされていたんですね。当時、事業開発室長だったのが現在の多田野宏一会長で、ちょうど何か社会に役立つ新しいプロジェクトができないかと探しているところでした。それで1991年から「モアイ修復プロジェクト」が始まったんです。

佐藤 クレーン車を寄贈されましたね。

氏家 それを使って倒れていた15体のモアイ像を祭壇に立たせました。1995年のことです。

佐藤 島にはもっと多くのモアイ像がありますが、なぜ15体だったのですか。

氏家 イースター島は全体が世界遺産ですから、部族同士の争いで倒されてしまったような歴史的経緯があるものは修復できません。当時修復させていただいた15体は、地震による津波の影響でバラバラになってしまっていたものです。

佐藤 そうでしたか。モアイ像を立てた後は、どんなことに使われていたのでしょう。

氏家 チリ領のイースター島では、物資のほとんどが南米大陸のチリの港から船で運ばれてきます。その荷物を陸揚げする際に使われていたそうです。1台目の調子が悪くなったというので2005年に2台目を、そして弊社が100周年を迎えたことを機に2019年には3台目のクレーン車を寄贈しています。

佐藤 タダノはチリで非常に有名な日本企業と聞いています。

氏家 日本企業では、やはり日産自動車やトヨタが有名ですが、同じくらいに知られていると思います。

佐藤 イースター島に寄贈されたのは、どんなクレーン車ですか。

氏家 弊社の主力製品である「ラフテレーンクレーン」です。一つの運転席で走行とクレーン操作が行える自走式クレーン車で、最近寄贈した3台目の最大吊り上げ能力は100トンです。不整地や軟弱地盤でも走行ができますし、小回りが利くので、市街地や狭隘地での作業もできます。

佐藤 一口にクレーンと言ってもさまざまな種類があるようですね。

氏家 弊社が製造しているのは、固定式のタワークレーンではなく、車と一体化した自走タイプです。建設用は、ラフテレーンクレーンより大型で車輪の数が多い「オールテレーンクレーン」、そして車輪ではなく履帯(りたい)(キャタピラー)で動き、吊り上げ重量もさらに大きな「クローラクレーン」があります。その他、運輸や造園などで使われる車両搭載型クレーンやデッキに人が乗る高所作業車なども製造しています。

佐藤 どれも子供たちが「働く車」として夢中になるものばかりです。やはりメインは建設用ですか。

氏家 売り上げの60%が建設用です。その国内シェアは55%、世界では20%ほどです。

佐藤 吊り上げ能力の高いクレーンは、どんなところに使われるのですか。

氏家 いま需要が拡大しつつあるのは、風力発電ですね。風力発電機の基礎やブレード(羽部分)を港湾施設から船に積み込んだり、100メートル以上もあるポールの上に発電装置一式を設置する際に、大型のクローラクレーンを使います。これは弊社が買収したドイツのデマーグ社の製品です。風力発電機設置の船積みに対応できるのは、弊社とドイツのリープヘル社くらいです。

佐藤 入口に展示してあったのはその模型ですね。V字状になっていて、クレーンというには、かなり複雑な形状をしています。

氏家 一本の腕をもう一本の短い腕で支える構造になっています。問題は、日本の岸壁がケーソン構造と言って、消波のために一部が空洞になっていることです。ここに私どもの重たいクレーンを乗せると岸壁が崩れてしまう可能性もある。

佐藤 どのくらいの重さなのですか。

氏家 クレーンだけで千トンほどあり、吊り上げる風力発電機のコンポーネントも千トン近いですね。一番能力の高いクレーン車は、1600トン~3200トンの荷物を吊り上げることができます。

佐藤 そうなると常に地盤の調査が必要になる。

氏家 はい。また、2番目に大きなオールテレーンクレーンは、都市部の大規模工事に使われます。最近は工事の大型化が進み、「より重厚長大なものを、より高く吊る」傾向が顕著になっています。例えば、駅周辺の改修工事です。渋谷駅の大規模改修工事では、クレーンで吊って大きな橋桁を交換しました。このような工事では、鉄道の運行時間やクレーン車を置いた道路の通行規制などから、非常に短時間で済まさなければならず、そこで弊社の製品がお役に立てます。

佐藤 だいたい何時間の作業ですか。

氏家 通行規制が難しい現場だと、夜中の12時から準備を始め、朝の4時までに完了しなければならないような工事があります。夜中ですし、はめ込むといっても温度の関係で鉄は若干伸び縮みしますから、細心の注意が必要です。

佐藤 オペレーターには、相当なプレッシャーがかかりますね。

氏家 高速道路が鉄道線路を跨いだりする際にも、同様の短時間作業があるのですが、そこでクレーンが機能しなかったら、工事全体がストップします。ですから壊れてはいけない。クレーンは止まらないことがもっとも大事なのです。

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