サッカー日本代表監督は“無責任なファン”に振り回される大変な職業 「日本人監督の方が適任」と思う理由とは(中川淳一郎)

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 サッカー日本代表の監督って実に大変な仕事だと、森保一監督への評価を見てしみじみと感じました。大会開始前は「五輪代表監督とA代表監督の兼任は難しい」「サンフレッチェ広島時代の成功体験である3-4-3のフォーメーションに拘泥し過ぎている」「固定の選手しか使わない」と酷評されたものです。

 さらには「愚将」「無能」とまで言われ、「ポイチ(同氏のあだ名)じゃ無理」とも言われた。しかし、グループリーグ初戦のドイツ戦で見事な勝利を収めると「あんたは名将じゃ!」といった評価になり「ポイチと呼んで申し訳なかった。もう呼ばない」などとネットに書かれました。

 しかし、続くコスタリカ戦で負けると「なぜターンオーバーするんだ。やっぱ評価しない」と書かれる。ターンオーバーとは、長期戦を視野にその前の試合とはガラリと違うメンバーを入れて、次の試合に備えるやり方です。しかし、コスタリカに勝てば決勝トーナメント進出が確実になるだけに、この試合に勝っておいて最終戦のスペインには引き分けか負けでいい、という意見が多数。しかし、スペインに勝利し、見事決勝Tへ進出したのです。この時も再び手のひら返しが発生したのは言うまでもありません。

 手のひら返しは、2010年、南アフリカ大会でも発生。大会直前の親善試合で韓国に0-2で敗れ、岡田武史監督解任論が沸騰しました。しかし、本選では攻撃の主力・中村俊輔を外し、守備力の高い阿部勇樹を中盤の底の「アンカー」と呼ばれる位置に置くことで堅守のフォーメーションを達成。初戦のカメルーン戦は1-0で勝利! この時ネットは「岡ちゃんごめんね」の声で溢れました。

 06年の代表を率いたジーコ監督に対しては04年、「ジーコ監督解任要求デモ」が発生するほど。とにかく連敗したりするとファンは激怒し、「コイツじゃダメだ!」となるのです。大変な職業だ。

 さて、そんな代表監督ですが、これまでの歴史を見ると、日本人監督の方が好成績につながっています。まず、岡田氏は日本を初のW杯出場に導きました。本選では3連敗に終わったものの、本選出場の常連となる礎を築いたといってもいいでしょう。その後の監督とW杯での結果を並べます。

02年:フィリップ・トルシエ→決勝T進出

06年:ジーコ→GL敗退

10年:岡田武史→決勝T進出

14年:アルベルト・ザッケローニ→GL敗退

18年:西野朗→決勝T進出

22年:森保一→決勝T進出

 トルシエ氏が指揮をとったのは日韓共催の時で、日本は「ポット1」というFIFAランキング上位の国扱いをされました。つまり、日本と韓国は、超強豪国との試合を避けることができたのです。相手はベルギー・ロシア・チュニジアと比較的ラクなグループに入ったのが影響したかもしれません。

 外国人監督だと通訳が間に入るため、練習や試合の時に意思疎通があまりできないように素人目には思えてしまうんですよ。日本人監督だと「おい、あの5番、これから上がってくるぞ、山田! カバーに行け!」とかで通じる。給料も安いし、次も日本人監督でいいんじゃないかなぁ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年12月22日号掲載

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