【ウクライナ戦争】キッシンジャー元国務長官の訴えも空しく…朝鮮戦争の休戦モデルが参考に

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唯一の解決方法は…

 ロシアの欧州に対する信頼も地に落ちてしまった感がある。

 ドイツのメルケル前首相は12月7日付独紙「ディー・ツァイト」のインタビューで「(ロシアとウクライナの停戦のために2014年に 結ばれた)ミンスク合意はウクライナが軍事力を強化するための『時間稼ぎ』を狙ったものだった」と語ったことに、プーチン大統領は9日「ドイツ政府は誠実に行動しているとずっと思っていたが、予想外のことで失望した。メルケル氏の言葉はロシアが人々を守るために特別軍事作戦を始めたことが正しかったことを証明するものだ」と反発している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は「クリミア半島を含めロシアに奪われた全領土の奪還」を停戦の条件としているが、西側諸国に対する不信感が頂点に達したロシアが軍事侵攻で獲得した占領地をみすみす手放すはずがないだろう。

 戦争の長期化が避けられない情勢下で、筆者は「朝鮮戦争の『休戦』モデルが残された唯一の解決方法ではないか」との思いを禁じ得なくなっている。

 1950年に勃発した朝鮮戦争は1953年に休戦協定が結ばれたが、停戦合意(正式な平和条約)は成立しなかった。その後も平和条約が結ばれることはなかったが、朝鮮半島での戦争は70年近く凍結されている。

 停戦合意は関係国の政治目標に合致することが必要でハードルが高いが、軍を撤退させて戦闘を停止させるという休戦の取り決めは現場の軍主導で成立させることが可能だ。

 ロシアの領土支配を認めることにつながる休戦を受け入れることはウクライナ政府にとって現時点では耐えがたいことだろうが、休戦を受け入れた韓国経済のその後の繁栄ぶりはウクライナにとって大きな魅力になるはずだ。筆者と同様の意見を有する米国の専門家も現れている(12月16日付日本経済新聞)。

 ウクライナの最終的な政治目標を断念させず、今後の経済成長の道筋につなげられる休戦協定の締結を、国際社会は真剣に検討すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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