【ドイツ】クーデター騒動の背後に100万人のウクライナ難民 集合住宅“放火事件”も

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 ドイツ連邦検察庁は12月7日、国家転覆を計画していた右翼テロリスト集団を一斉摘発し、25人を逮捕した。摘発されたテロリスト集団は昨年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという。

 逮捕者の中に既存の国家秩序を否定する「ライヒス・ビュルガー(帝国の臣民)」のメンバーがいたことが話題を呼んだ。このグループは米国の陰謀論サイトである「Qアノン」の人種差別的な陰謀論に深く共鳴していることで有名だった。欧州における「Qアノン」の信奉者の大半がドイツに住んでいると言われている。

 この計画を首謀していたのが貴族の末裔であるハインリヒ13世を名乗る男だったことにも世間の関心が集まった。「ハインリヒ13世」はドイツ東部に複数の城を持つロイス家の出身だが、国内外の右翼過激派と幅広いネットワークを持ち、数年前から当局がマークしていた。

 もう1人の首謀者にドイツ連邦軍の元空挺隊長が就いていたことなど今回の騒動は話題に事欠かないが、筆者が注目したのは逮捕者の中に元連邦議会議員のビルギット・マルザック=ヴィンケマンがいたことだ。ヴィンケマンは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属し、2017年から21年までの連邦議会議員在任中、難民政策について問題発言を繰り返していた。

 AfDは2017年の連邦議会選挙で第3党に躍り出たが、追い風となったのは国内に流入したシリア難民への国民の反発だった。メルケル首相(当時)は2015年に人道的な理由でシリア難民の大量受け入れを決断したが、これが災いして同氏の支持率は大幅に低下し、政策の変更を余儀なくされた。

 人種差別的な陰謀論の隆盛は難民や移民の増加が大きく影響するようだ。

「かぎ十字」の落書き

 今や陰謀論のメッカとなった米国では移民の流入に歯止めがかからない。

 米移民研究センターによれば、米国の全人口に占める合法・不法移民(外国生まれ)の割合は今年9月時点で14.6%に上っており、過去最高の1890年の14.8%を来年にも突破することが確実な情勢だ。

 ドイツでも新たな問題が発生している。

 ロシアの侵攻以来、ウクライナからの避難民が急増している。

 ウクライナ人は元々ビザなしでEUに3ヶ月間滞在することができたが、現在は無条件で1年間の滞在許可が認められている。

 ドイツ内務省によれば、ウクライナからドイツへの避難民は10月中旬時点で100万人を超えており、2015~16年のシリア難民の数を既に上回っている。

 当初はウクライナ人への受け入れに前向きな風潮だったが、「ない袖は振れない」

 避難民を収容している自治体の財政は既にパンク状態になっているが、政府は寛容な避難民受け入れの方針を変更していない。

 深刻なインフレや景気の悪化で国民の不満が高まっている最中の10月中旬、ドイツ北部にあるウクライナ避難民が入居予定だった集合住宅が放火で全焼するという事件が起きた。幸いにもけが人は出なかったが、放火前、建物にナチスのシンボルである「かぎ十字」の落書きが見つかっていた。

 今回のクーデターは未然に防止することができたが、ウクライナ避難民に対する国民の反発が収まらない限り、国内の過激派組織に対する支持が高まる可能性は排除できない。

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