「通行人の前でビンタ」「坊主を強制され…」 落語界のパワハラを弟子が告発で業界は変わるのか

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いきなり暴力を振るわれ「破門だ」

 そして気の休まらない5年が過ぎた。井上氏はコロナ禍が続く今年2月、圓歌がトリを務めた浅草演芸ホールでの10日間の興行の際に、決定的な暴力を受けたと振り返る。

「師匠がトリを務める時、弟子は必ず楽屋に顔を出すのが習わしです。でも、当時は感染症対策ということで落語協会も“楽屋で待機しないように”との通達を出していた。念のため、おかみさん(圓歌夫人)からも師匠に確認していただき、“楽屋に残らず帰っていい”と指示されていたんです」

 ところが8日目に圓歌から電話が入ったそうだ。

「“千秋楽に顔を出せ”と。やむなく楽屋に行くと、いきなり暴力を振るわれて、その場で“破門だ”と言い渡されました」

 その後、圓歌から「2月中にわびがない時は破門」とのメールが届いたという。

「僕には非がないので、謝罪するつもりはありませんでした。ただ、師匠が協会に破門届を出さないと、ほかの師匠に弟子入りできない。これには困りました」

 ついに井上氏は腹をくくった。入門以来続いた暴言や暴力行為に対して、300万円の慰謝料を求めて東京地裁に提訴したのである。そこには圓歌が井上氏に破門を言い渡しながら、協会に破門届を提出しないのは弟子を生殺しにする悪質な嫌がらせであるとの主張も含まれた。

真打に昇進できたかもしれないが「後悔はない」

「騒動後、師匠と落語協会に内容証明を送りました。師匠の弁護士からは1度連絡があっただけ。協会は師弟間に口を挟まずでしたね」

 が、10月に一部で騒動が報じられると事態は一変。

「正式に僕は破門され、やっと師弟関係が解消に。落語協会も説明会を開くというので行ってみたら、僕の主張に対する出席者の賛否は半々くらいでした」

 井上氏は〈三遊亭天歌〉という高座名こそ返上したものの、いまも落語協会には本名で所属を続けている。

「僕もあと何年か我慢すれば真打に昇進できたかもしれない。でも、後悔はありません。落語は大好きだから、落語家を辞めるつもりもありませんし」

 当の圓歌は何と言うか。

「違法なパワハラ、暴力行為は全く存在していません」

 第1回の口頭弁論は12月23日。“師弟だから――”との因習に風穴は開くのか。

週刊新潮 2022年12月8日号掲載

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