「定年になる夫との二人暮らしが心配」 58歳の妻の背中を押したカウンセラーの言葉とは

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夫婦を再び成立させるには

 少しうつむきがちだった相談者女性の顔が上がり、目に力が入ってきました。先ほどより大きな声ではっきりお話しなさいます。

「そうなんですね! 私たち夫婦は今、『回帰期』を迎えているんですね。なるほど、とてもよく分かります。私たち夫婦には、最初の『成立期』がなかったために、どうしたらいいのか不安に思っているのが今の私なんですね」

 やはり彼女は聡明な女性だと感じました。

 というのも、夫婦のライフサイクルの説明を行うと、一般的に多いのは、自分たち夫婦の関係の悪さや、夫が父親として成長しなかったことへの不満と子育ての後悔を語ることに終始し、涙する人が一般的には多いのです。

「もっとあのときああすればよかった」「あのときあの人は何もしてくれなかった」等々。そうした反応を促すための説明ではないのですが。

 相談者女性のようにご自身の“夫婦”を俯瞰して見ることのできる人は少ないものです。

 彼女の言う通り、最初の「成立期」をお腹の赤ちゃん中心に過ごしたために、夫婦二人の関係性をうまく成立できなかったのでしょう。

 それ以降は子供中心の家族となって、外で働く夫と家を守る妻という役割分業はできたものの、仕事にまい進した夫と子育てにまい進した妻は、父親母親としての役割に重きを置いて、ひと組の男女として分かり合うというのは困難だったかもしれませんし、それを責めることはできません。

 今、彼女たち夫婦が同時に迎えた「拡張期」と「拡散期」はすでに起こっていることですし、ご長男もご長女も立派な社会人となっているため、細かく振り返る必要もないでしょう。

 それよりも、今後迎える「交替期」が大切です。

 交替期というのは、夫婦二人ではじまった家族が、子育てを行い、子供を巣立たせ夫婦二人に戻った後に、世代を交替していくことを意識しながら暮らす時期です。次の世代を支える気持ちで生きていくということです。

 大丈夫です。相談者彼女のご長男は結婚し、これから子供が生まれるようですし、いま独身のご長女も数年内には結婚する気持ちを持っていらっしゃるようですので、相談者彼女の「交替期」は穏やかに迎えられそうです。

 突然、彼女が大きな声で問いかけてきました。

「成立期がなかった私たちはどうすればいいんですか。それは、今から取り戻すことができるものでしょうか」

 はい。成立期のやり直しをすればいいんです。

 たしかに、20代の若かった時に夫婦の関係を成立させることができていれば、いまの彼女が悩みや不安を抱えることはなかったかもしれません。過去を変えることはできませんが、これからの未来を変えていけばいいだけですよね。

 50代、60代で結婚する人もたくさんいらっしゃいます。彼ら彼女たちは、50代、60代から、パートナーである相手を知る努力をし、自分自身を知ってもらえるよう努めています。

 相談者の彼女も、58歳の今から結婚を新しく始める気持ちを持って、2歳年上の夫について、今まで知らなかったことへの新たな「発見」をしていけばいいのです。

 食事に関して彼の好みは若い頃と変わっていないでしょうか。彼の体調はどうか、内臓や関節など不調のところはないでしょうか。定年退職後どんなふうに過ごしたいと彼は考えているのでしょうか。

 そんなさまざまな夫への関心を持つことによって、夫側も妻に対する関心を持つ可能性もあります。もしも相手がさほど関心を持たないのであれば、適切な距離を保った関係性を構築すればいいので、大丈夫です。何をしたらいいのかと不安を感じることはありません。

 ともすれば、定年後の夫婦関係は冷え冷えしたもののようなイメージを抱く方が多いようです。これはドラマや小説の影響でしょうか。

 でも、何歳からでもパートナーの新しい面を見つけることができますし、それはなにより、自分自身の成長となり、自分が成熟していくことでもあります。

 来年の夫君の定年退職を待たず、今すぐ、今日から「発見」を始めてくださいとお伝えしました。新しく見つけていく視点を持ち続けることができれば、年齢にかかわらず人生を楽しく過ごすことができますよ、大丈夫です、と。

池内ひろ美(いけうちひろみ)
家族問題評論家。一般社団法人ガールパワー(Girl Power)代表理事。家族メンター協会代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。1996年より「東京家族ラボ」を主宰。『とりあえず結婚するという生き方』『妻の浮気』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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