死刑囚3人が「絞首刑は残虐」と国を提訴 相場を無視した“高額慰謝料”に感じる違和感

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延長狙い説

 元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏も、やはり3300万円という金額に違和感を覚えたという。

「社会に問題提起するため訴訟を起こすということは、全く珍しいことではありません。“正義のための戦いであり、金銭の要求は必要ない”という原告も少なくないのです。ただし、慰謝料を極端に少額としてしまうと、地方裁判所ではなく簡易裁判所での審理が決まるなど、世論への訴求力が弱まることがあります。こうした懸念を回避するため、1人あたりの慰謝料を110万円に設定することがよくあります」

 一方、死刑囚3人は、精神的苦痛の賠償として3300万円の慰謝料を請求した。1人あたり1100万円と考えられる。110万円との差は相当なものがある。

「1100万円という金額は会社員の年収としても高く、普通の人が一度に手に入れられるものではありません。額に汗して働く人でも得られないほどの大金を、拘置所で生活し、ある程度の衣食住が無料で提供されている確定死刑囚が手にする可能性があるわけです。これでは『絞首刑は残虐な刑罰か』という問題以前に、納得のいかない人も少なくないのではないでしょうか」(同・若狭氏)

 ネット上では「訴訟を起こすことで、死刑執行の延期を狙っているのでは?」という投稿も目立つ。

「口封じ」の懸念

「法曹界の一部では、『再審請求を行うと、死刑の執行延期が期待できる』と指摘する関係者がいるのは事実です。しかし、その信憑性は明らかになっていません。まして民事訴訟となると、本当に死刑執行の延期が狙えるのか、私にはなんとも言えません」(同・若狭氏)

 その一方で、ある程度なら法務省や法務大臣などに対する“プレッシャー”になる可能性も否定できないようだ。

「裁判が審理中であるにもかかわらず、3人のうち誰かの死刑が執行されれば、『口封じに殺した』と批判する人が出てくるかもしれません。もちろん、口封じなどあり得ないのですが、法務省としては『痛くもない腹を探られる』のは嫌でしょう。今回の訴訟が最高裁で判決が確定するまでは、死刑執行に躊躇を感じてしまうかもしれません」(同・若狭氏)

 いずれにしても、裁判の結果は明らかなようだ。最高裁は1955年に「絞首方法がほかの方法に比べ人道上、残虐であるとする理由は認められない」、さらに2016年にも「死刑制度は、執行方法を含め、憲法の規定に違反しない」と、いずれも合憲の判断を下している。

 具体的な事件の審理で死刑の執行方法の是非が争われたケースも多い。帝銀事件(1948年)の平沢貞通・元死刑囚(1892~1987)や、1972年から1983年の間に8人を連続殺害した勝田清孝・元死刑囚(1948~2000)は、裁判で「絞首刑は残虐な刑」と主張した。だが、いずれも判決で反論されている。

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