蒋介石「ひ孫」が台北市長に当選 「血筋は申し分ないが、少し曰くつき」と言われる事情

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 11月26日に行われた台湾地方統一選挙で、目玉となった台北市長選は蒋介石元総統のひ孫に当たる最大野党国民党の蒋万安立法委員(43)が、与党・民進党の陳時中・前衛生福利部長(衛生相・68)に14万票以上の差をつけて当選した。【広橋賢蔵/台湾在住ライター】

 蒋氏は当選を決めた夜、支持者たちを前に「台湾の輝かしいページが始まります。台北の繁栄のため、共に力を合わせようではないですか」と勝利宣言。その表情は当初、弱々しさが残る新人議員から脱皮した、若く雄々しい政治家に映った。

 この地方統一選挙は、中台有事の危機がクローズアップされる中、有権者たちが台湾の未来をどの政党の誰に託すのかを決める場として注目された。

 結果は、台北市長をはじめ多くの県市で野党国民党の大勝利。その背景には、民進党政権下の経済政策、コロナ対策などへの評価も含まれていたが、台湾の人々はこの選挙で、なぜ与党民進党に厳しい点数を与え、野党国民党へ票を投じたのか。急速に注目度を集める蒋万安氏にもスポットを当て、今後の台湾の国際的な立ち位置について考えてみたい。

期待票が一斉に集まった

 藍・緑・白の三つ巴――。それが今回の台北市長選の構図だった。藍は国民党を象徴するブルー、緑は民進党のカラー、白が無党派である。

「白」は現台北市長柯文哲氏(63)の下で副市長を務めた黄珊珊・元台北市議(53)。実務家として評価は高かったが、柯文哲市長の失言、暴言などに台北市民は飽き飽きしていたのか、柯氏を引継ぐ人物には人望が集まらず、最終的には票を伸ばすことができなかった。

 与党民進党候補の陳時中氏は、選挙活動中にすでに政治家としての手腕には疑問が持たれ、失速していた。

 衛生福利部長時代、コロナ時の迅速な対応についての人気の高まりが、陳氏をして台北市長選に立たせたが、その後、オミクロンの蔓延が台湾を襲い、その信頼度は失墜していった。

「すでに賞味期限は過ぎていたことを、蔡英文はじめ、民進党が見抜けなかったのか。思い切って国民党のように若手を起用するべきではなかったか」という候補者選びへの失策にも、蔡政権の読みの甘さが指摘された。

 片や蒋万安氏には、これといってカリスマ的な魅力があったわけではない。投票前、3人が参加したテレビ討論会では黄候補の弁舌が冴え渡り、蒋氏をも凌いでいたように見えた。

 が、笛吹けど踊らず。有権者は黄候補の実績を見て判断をくださなかったのである。

 蒋氏はあくまでも血筋のよさと若さと実直な姿で、マイナス要素を出さなければよく、この勝負は理性的に考えれば読みやすかったと言える。

 台湾TVBSのニュース評論にもあったように、今回は蒋氏への期待票が一斉に集まったものと考えたほうがいいだろう。実績はまだなくとも、彼の将来性に賭けたというわけだ。

 蒋氏に投票したという20代の女性に理由を尋ねると、こう答えた。

「5人家族でみんな一緒に蒋に投票しました。うちは父親が元々公務員。公務員の人はかつて国民党にお世話になっているので、選挙では国民党に入れます」

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