蒋介石「ひ孫」が台北市長に当選 「血筋は申し分ないが、少し曰くつき」と言われる事情

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シリコンバレーで弁護士

 蒋氏は、曽祖父が台湾で長期に亘る独裁政権を敷いた蒋介石。祖父は蒋経国元総統、父の蒋孝厳氏が外交部長(外相)を務める政治家一族だ。血筋は申し分がないが、少し曰くつきだ。

 2005年以前の名前が章万安。つまり蒋経国総統の愛妾の一族だった。愛妾の名は章亜若。蒋経国氏はロシア人正妻を気遣い、蒋を名乗らせずに近年まで過ごした。

 そんな事情もあって、万安少年は、自分が蒋介石の一族であることを知らされずに育ってきた。血筋について薄々は分かっていたが、両親が何も打ち明けないので子供心にこのことには触れないようにしていたと言う。成長後、父親から家族の一部始終を知らされ、以後は蒋介石、蒋経国父子が眠る墓所へ毎年参拝するようになった。そして蒋経国の正妻がこの世を去ることを待ち、DNA鑑定を経た上で、蒋経国の血脈であることが証明され、2005年から蒋姓を名乗ることになる。

 そんな経緯もある中、万安氏は米国に渡り、ペンシルベニア大学で法学博士号を取得、シリコンバレーで弁護士を務めてきた。
 
 とはいえ、馬英九政権も2期末に入り、次世代の国民党の旗手を求めていた国民党が、蒋氏を放っておくわけがない。本人の意思とは違ったかもしれないが、将来を嘱望され、台湾に戻った2015年頃から、蒋氏の運命は定まっていた。

「亡き祖父も私を鼓舞してくれている」

 帰国後まもなく立法委員(国会議員)選に打って出て、みごと当選。血筋もさることながら、精悍なマスクも若年層や女性層を味方にした。2020年にも台北市選出の国会議員選の目玉として民進党の若手対立候補と争った結果、みごと勝利した。

 1990年代から民主化が進み、「蒋家の一族からはもう政治家を出さない」という不文律のようなものが存在していたが、それに反するのでは?というメディアからの意地悪な質問に対しても蒋氏は、「台湾はすでに民主国家であって、私は民主的な手続きを経て参政している。亡き祖父(蒋経国)も私を鼓舞してくれていると思っている」と毅然と語っている。

 また、今回の投票前に出演したテレビ討論会では、中国共産党が台湾統一を巡り「武力行使も厭わない」という方針を示す中、台北市の安全をどのように守るか質問を受けた際「中華民国憲法を順守し、中華民国の主権を守る。台湾の民主、自由、法治、人権の価値を守る。これは私を含め台湾人全員の不動の信念だと信じる」と述べた。

 彼の人気を支える要因のひとつとして、米国生活が長かったという国際派の一面も挙げられ、自身も「失敗を恐れないシリコンバレーの精神を台湾に持ちこみ、多様性ある国際都市にしたい」と述べている。
 
 ITを活用して旅行をしながら仕事をするデジタルノマドを世界中から呼び込むスタートアップ政策や、米国を参考にした文化や芸術イベントの実施を提言しているのも、蒋氏ならではの視点と言える。

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