薬から人工衛星まで 光学技術で「製造」を変える――馬立稔和(ニコン社長)【佐藤優の頂上対決】

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創薬に関わる

馬立 まずヘルスケアからご説明すると、弊社は戦前から顕微鏡を作ってきました。

佐藤 ニコンの顕微鏡は非常に有名です。

馬立 その顕微鏡を中心に、それを売るだけでなく、ソフトウエアやサービスも一緒に提供しようとしていたのですが、なかなかうまくいかない。それは顕微鏡を使って何ができるかを明確にできていなかったからです。そこで精査して出てきたのが「薬」なんですよ。

佐藤 薬ですか。ニコンと薬はなかなか結び付かないですね。

馬立 弊社は、試薬を与えた細胞を顕微鏡で見て、それがうまくいっているか、どう変化するのかなどを観察・分析し、その評価をコンピューターにさせる仕組みを作りました。

佐藤 光学技術にAIを組み合わせたわけですね。製薬業界は今後、大きな伸びしろがあります。

馬立 もともと弊社の顕微鏡をご利用いただく場所は、研究機関や大学などの、アカデミックな世界が中心でした。そこから製薬会社など民間へ出ていくことにした。

佐藤 民間に比べて大学は予算面でかなり制約がありますからね。

馬立 ええ、文科省の予算でだいたいの売り上げが決まってしまうところがあります。そこで、これまでの顕微鏡づくりで培ってきた技術や研究者との深いつながりを生かして、創薬分野向けに、細胞の可視化・解析ソリューションや、再生医療用細胞や遺伝子治療用細胞の受託開発・生産を提案したわけです。

佐藤 すでに事業化されているのですか。

馬立 はい。いまはiPSなど細胞培養の領域の発展が著しい。そこにうまく対応できたので、売り上げが伸び、利益が出てきたところです。日本だけでなく、アメリカならボストン、ヨーロッパではオランダのアムステルダムなど、世界的な研究拠点になっているところで活動しています。

佐藤 顕微鏡ビジネスでは、どんな相手と競合するのですか。

馬立 歴史的に顕微鏡が強いのは4社。日本では弊社とオリンパス、それからドイツのカールツァイスとライカです。

佐藤 どれも光学技術のきちんとした基盤がある会社ですね。つまり非常に参入障壁の高い世界でビジネスを展開していることになる。

馬立 最近の自動分析する顕微鏡は、みなさんご存じの顕微鏡の形をしていません。四角い箱にサンプルを入れると数値がバッと出てくる。

佐藤 装置になっているのですね。

馬立 製薬会社や大学などの機関が薬を創り出す創薬研究の際は、その細胞の観察や培養、解析なども請け負っています。

佐藤 観察機器から観察、そして観察対象までが事業になった。

馬立 顕微鏡という機器と共に、ソフトウエアも提供する。こうしたハード、ソフト両輪でのビジネスモデルは、どの事業でも応用できます。将来的には、全社で完成品の販売とサービス・ソリューションの提供の割合を半々にしていきたいと考えています。

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