薬から人工衛星まで 光学技術で「製造」を変える――馬立稔和(ニコン社長)【佐藤優の頂上対決】

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ニコンの3Dプリンター

馬立 次に、材料加工などのデジタルマニュファクチャリング事業です。材料加工は、レーザーが元になっています。近年、技術が進み、光の波がきちんと整ったレーザーにより、さまざまなことができるようになりました。これにデジタル技術を組み合わせると、金型であるとか、熟練技術がなくても、非常に精密な部品が作れます。

佐藤 これも光学技術の応用ですね。

馬立 材料加工は、素材を刃物で削ったりドリルで穴を開けたりと、もう200年くらい前から変わっていません。それをニコンはレーザーで行う。

佐藤 すると、より簡単に精度の高い加工ができるのですね。

馬立 事業として中核に据えたのは、レーザーを使った金属3Dプリンターです。工作機械のメーカーは日本にたくさんあって成熟した市場ですが、そこに、設計データの入力だけで精密な部品や製品ができる装置で参入する。これは非常に大きなインパクトを与えると思います。

佐藤 画期的ですね。このアイデアはどこから出てきたのですか。

馬立 最初は半導体露光装置の開発設計者から提案があって、まず2人から始まりました。

佐藤 では社内ベンチャーみたいなものですね。

馬立 それが3年ほどである程度形になった。まだまだ技術的には開発途上ですが、世の中の流れを見ても、大きな可能性があると思います。

佐藤 というのは?

馬立 私はこれまでのような大量生産の時代は終わるのではないかと思っています。社会が多様化して、人の嗜好もさまざまになると、それに合わせた多品種少量生産のシステムが必要です。また、どこかで集中して大量生産するのではなく、ローカルに少量作ることも求められてくる。

佐藤 確かにコロナでも米中デカップリングでも、生産拠点を1カ所に集約する構造が弱点になりました。

馬立 ですから地域ごとに多品種少量生産できるようにしていく。それを実現するのが3Dプリンターだと思います。

佐藤 確かドイツの3Dプリンターの会社の買収を発表されていますね。

馬立 9月に金属3Dプリンター大手のSLMソリューションズグループAGの買収を発表しました。いま株式の公開買い付けを行っていますが、この会社には大きなものを高速で作る技術があります。一方、弊社の金属3Dプリンターは非常に小型で、小さなものを作ることが得意です。両者のラインナップがそろえば、世界で非常に強いポジションが取れます。

佐藤 この装置が生きる分野はどのあたりでしょうか。

馬立 宇宙関係に期待しています。いまどんどん人工衛星が打ち上げられています。人工衛星は軽量化する必要がありますが、従来のやり方だとさまざまな場所を溶接しなければなりません。金属3Dプリンターなら、それを一体化して作ることができる。

佐藤 一体化すれば、溶接より強度も上がります。

馬立 その通りです。また最近は、高級車のサスペンションなども作られ始めています。

佐藤 資料で拝見したのですが、飛行機の機体に貼るフィルムの話が興味深かったです。

馬立 液体や空気の摩擦を低減する特殊なフィルムですね。これはレーザーと微細加工技術を組み合わせ、フィルムの表面に“鮫肌”を模した加工をします。それによって空気抵抗が減り、燃費の改善、CO2の削減が期待できる。この10月から全日空のボーイング787型機に試験装着しています。

佐藤 航空機だけでなく、さまざまなものに応用できそうですね。

馬立 リブレット加工と言いますが、これは持続可能な社会の実現に貢献できる技術だと思いますね。

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