ネット上にアップされたポルノ動画を警察が大捜査…イスラム大国「インドネシア」の性事情“表と裏”

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警察が本格的に捜査に乗り出し…

 さて「クバヤ・メラ」だが、インドネシア社会で話題になったことで、警察の特定捜査が始まった。

 映像を子細に調査した警察は、当初、窓からの景色やホテルの部屋の構造、ドアの特徴などから、バリ島にあるホテルとにらみ、捜索を開始。ところが、該当するホテルをなかなか見つけられず、捜査は暗礁に乗り上げようかという矢先、バリ島ではなくジャワ島・東ジャワ州の州都スラバヤにあるホテルではないかとの指摘がなされた。

 指摘を受け、東ジャワ州警察が総力を挙げて捜査した結果、撮影に使用されたホテルと部屋を特定。宿泊名簿から「クバヤ・メラ」に出演した男女が確認され、11月7日に逮捕された。

 逮捕された男性は「ACH」、女性は「AH」と、警察は容疑者のイニシャルだけを発表し、本名の公表を避けた(詳細は省くが、インドネシア人には姓がなく、名前は2つ以上あるのが一般的である)。

 しかし、インドネシアでは容疑者が警察の記者会見に同席し、その様子をマスコミに取材させることが一般的である。逮捕された2人も会見に同席させられ、「逮捕者」と書かれたオレンジ色のベストにマスク姿で報道陣の前に登場、その様子はテレビ各局のニュースで流れた。

 ネットでは特定作業が進み、出演した女性が「マローン」という芸名の女優であると判明、現在はいろいろなクバヤ姿のマローンの写真がSNS上に溢れている。

警察とのイタチごっこ

「クバヤ・メラ」の場合は社会的影響の大きさを考量してか、警察が必死の捜査で摘発したものの、特定作業には困難が伴うためポルノ動画の摘発例はそれほど多くない。また、ポルノ動画の作り手も、場所や人物がバレないよう十分に「配慮」しているという事情もある。

 売春が描かれた「クバヤ・メラ」だが、あながち荒唐無稽な物語というわけではない。インドネシアでは一部の超高級ホテルで、こうした従業員による「売春行為」があるにはある。従業員が……というのは例外にしても、一般的なホテルでも、ホテルのバーやディスコで客を待つ女性の姿は珍しくない。男性従業員が要望に応じて部屋を訪れる女性を手配するケースもよくある。

 インドネシアでも売春は立派な法律違反だが、主な都市にはディスコやカラオケバーがあり、そこには「一夜の相手」を求める男女が蠢いている。そうした場所の多くが警察高官や軍幹部の保護下に置かれているとの裏事情がある。1990年代には軍の最高幹部が自らの実名を冠して経営する高級売春クラブが存在し、一流の女優やモデルが高額で相手をしていたことは誰もが知る事実だ。

 カラオケ店やディスコで待ち構えるそうした女性の多くは、離婚して子供を抱えるシングルマザーである。10代で結婚し、避妊を厭うイスラム教の教えで妊娠・出産するものの、生活苦から離婚、夜の商売へというケースが珍しくない。

 彼女たちは生活の為に体を売るしかなく、またすでに処女でもないため、性行為に対する躊躇もほとんどないのが実情とされている。歪んだ形での宗教の影響を感じさせる。

 世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアの表と裏、建前と本音が「クバヤ・メラ」騒動から見えてくる。

大塚智彦(フリーランスライター)

デイリー新潮編集部

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