アフリカで誘拐された日本人男性は間一髪で救出された 現地警察に懇願した元公安警察官の証言

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、アフリカで発生した日本人ビジネスマン誘拐事件について聞いた。

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 2008年の秋、アフリカで50代の日本人ビジネスマンが誘拐される事件が発生した。

「犯行グループはナイジェリア人でした」

 と語るのは、勝丸氏。かつて同氏は警視庁から外務省に出向し、アフリカ大陸のある国に警備担当の外交官として赴任していた。

「今も守秘義務があるので国名は明らかにできませんが、その時私が直接関わった話です。犯行グループの一人はアフリカで商社を経営していると偽り、日本人の仲介者を通じて都内の貿易会社に中古レールの買い付け話を持ちかけたのです」

「419事件」

 英文のメールでやり取りしたというが、商談はなかなかまとまらなかった。

「価格交渉が難航したため、ナイジェリア人は『アフリカに来て欲しい、直に交渉しよう』と提案しました。それで日本人の50代男性が単身でアフリカに赴きました。ナイジェリア人は社員を空港で出迎え、自分たちのアジトへ連れて行きました。そして彼を縄で柱に括りつけ拘束したんです」

 犯行グループは社員を誘拐したその日、日本の貿易会社に身代金を要求する英語のメールを送り付けた。

「『50万ドル(当時約5250万円)払わなければ、社員を殺害する』という内容でした。振込先として、なぜか台湾の銀行が指定されたそうです」

 現地では、1980年代からナイジェリアを中心に広まった国際的詐欺事件の一つだと見られていた。

「ナイジェリアの刑法419条に抵触する詐欺犯罪のため、関係者の間で『419事件』と呼ばれています。マネーロンダリング(資金洗浄)や貿易取引を持ちかけ、商談のために現地に赴いた人を誘拐し、身代金を要求するのです」

 身代金を要求された貿易会社はすぐに所轄署に通報した。

「警視庁から私の携帯に電話がありました。『日本人がアフリカで誘拐された。現地の警察に協力を要請し、日本人を救出しろ』という内容でした」

 勝丸氏はすぐに、現地の警察に出向いた。

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