ヘルソン解放でもゼレンスキー大統領を待ち受ける3つの難題

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南部戦線の重要性

 一方、ロシア軍は南部戦線の膠着を見越して、今は東部戦線に兵力を集中しているようだ。毎日新聞は14日、「ロシア軍、東部ドネツク州に注力か ゼレンスキー氏『戦闘激化』」との記事を配信、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。

 こうなると「南部戦線が膠着するのは仕方ない。東部戦線に注力してロシアの更なる弱体化を狙うべきだ」という意見が出てくるのは当然だろう。

 だがウクライナには、ドニエプル川を渡り、ロシア軍を追撃し、何としてもクリミア半島を奪還するという切実な理由がある。

「第3点は、ウクライナの戦後復興という難題です。ウクライナは小麦の輸出国として知られていますが、ロシアとの関係が悪化するまでは軍事産業でも外貨を稼いできました。内陸の工場で製造された兵器をアゾフ海沿岸から貨物船に積み、黒海と地中海を経てアフリカ諸国に輸出するのです。この海路は、まさにウクライナ経済の“生命線”と言えます」(軍事ジャーナリスト)

 たとえ停戦交渉がまとまったとしても、両国の間で極度の緊張状態が続く可能性は高い。しかもクリミア半島にロシア軍が居座っているとなると、海路の自由は脅かされる。ましてロシアは、ウクライナの小麦輸出を“妨害”した可能性も指摘されている。

困難な舵取り

 戦後復興を成し遂げるためには、クリミア半島からロシア軍を叩き出し、ウクライナ領であることを明確にする必要がある。

「ウクライナにとっては東部戦線より南部戦線のほうが重要という見方もできるほどです。ゼレンスキー大統領がクリミア半島の奪還に執念を燃やすのは、『国民を喜ばせよう』とか、『国家の威信がかかっている』という短絡的な理由ではありません。戦後の経済復興を考えれば、むしろ半島の奪還こそ不可欠なのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 だがゼレンスキー大統領には、少なくとも強い追い風は吹いていないようだ。NATO諸国に“支援疲れ”があるのは先に触れたが、ウクライナ国民に“厭戦気分”が蔓延する可能性も否定できないという。

「今、ウクライナ国民の士気は最高潮に達しているでしょう。ゼレンスキー大統領はこのムードを最大限に活用し、一気にロシア軍を殲滅したいはずです。しかし、迎撃は可能でも、追撃には強い国力が求められます。また、ウクライナ軍が勝利を重ねると、『戦争はもう充分。平和こそが必要だ』という国内世論も高まるはずです。どうやって国民の戦意高揚を維持し、NATO加盟国と連携して悲願のクリミア半島奪還を実現するか、まさにゼレンスキー大統領の手腕が問われています」(同・軍事ジャーナリスト)

註:共和党が勝利した後、これからウクライナ・中国・アメリカで起こる「驚くべき変化」(現代ビジネス:11月11日)

デイリー新潮編集部

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