女性バーテンダーとの不倫に溺れる50歳男性 全てを知っていた息子が放った一言が分岐点

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「お父さんがつきあってる人のこと、知ってるんだ」

 2年の間、ふたりは会う頻度は決して多くなかったが、濃密な時間を過ごした。彼女は結婚という言葉を口にしたことはない。誠さんも家庭を捨てるなど考えたこともなかった。

 ところが急転直下、気持ちが変わったのは今年大学生になった長男の一言だった。彼はなぜか遠方の大学を受け、3月に引っ越していった。

「そのとき息子が言ったんです。『お父さんも自分のことを考えたほうがいいよ』って。どういう意味か尋ねたら、息子は口を割らない。しつこく聞くと、『お父さんがつきあってる人のこと、知ってるんだ』と。息子はたまたま友美佳と同じマンションに住んでいるお宅に家庭教師に行っていたそうです。僕が友美佳の部屋に入っていくのを見たことがあるらしくて。最初は嫌悪感があったけど、お父さんも長年、あのお母さんやお祖父ちゃんで苦労してきたような気がするよと大人びたことを言っていました」

 息子には母親の「幸せを求めようとしない生き方」への違和感が強かったのだ。何ごとも起こらないようにし、いくつになっても父親の言いなり。「お祖母ちゃんのほうがずっとかっこいいよね」と息子は言った。

 幸せを求める生き方か。彼は心が突き動かされるのを感じていた。そして半年前に家を出てマンションを借りたのだ。友美佳さんは「うちに来ればいいのに」と言ったが、それはできないと彼は言った。一緒に暮らしたら愛情が腐るかもしれない。それが怖い。友美佳さんは涙をためて頷き、ありがとうと言った。

「仕事が忙しいので会社の近くに小さな部屋を借りようと思うと言ったとき、妻は『あら、そう』と。妻とべったりの娘も何も言わなかった。妻はわかっているはずですよ、僕が通えないほど忙しいわけがないことを。でも受け入れる。それが彼女の生き方なんです。僕は自分の幸せを追求したい。出ていくとき、妻は『離婚はしないから』とつぶやきました」

 尚子さんの父親はすでに退職しているが、今も会社とは関わりがある。父親に一言、夫が出て行ったといえば、誠さんはすぐにクビを切られるだろう。

「でもこの半年、僕は仕事も以前よりうまくいっているし業績も上げてる。友美佳との関係も良好です。何より僕は友美佳を絶対的に信頼しているんです。彼女もそう言ってくれている。結婚生活の長い尚子より、ずっと信頼できるのはなぜなのかわからないけれど」

 本当はもともと友美佳と僕は、ふたりでひとりなのだと思う。彼はおそろしくまじめな顔でそう言った。

 ***

 妻に不倫がバレ、職を失うリスクを承知の上で、亀山氏の取材に惚気のような言葉を口にする……現在の誠さんが“恋に恋する”状態にあることは論を俟たない。

「この道を突っ走る」という台詞も口にするが、友美佳さんへの想いはこのまま永遠に変わらないのか。冒頭で触れたとおり、関係がつづいて2年というのはひとつの潮目である。

 もしかすると誠さんは、友美佳さんその人にではなく“自由に幸せを追求する”自分そのものにも恋しているのかもしれない。それは、たびたび語られる「父のいいなりの妻」批判、そして大学生になった息子の言葉に心が動く様子からも見て取れる。

 友美佳さんといっしょに暮らさない理由を「愛情が腐るかもしれない。それが怖い」と誠さんはいう。それはひょっとすると、恋心が冷め「自由に振る舞う自分」を失う恐れもあるためではないか。勤め先の役員の娘と結婚し、育児にも意見を通す機会が得られなかった。誠さんが本当に欲しているのは自由に生きる自分なのではないか。

 その点を友美佳さんはどう感じているのだろう。家族も、仕事も、友美佳さんも失う最悪の展開を迎える可能性が、誠さんにはまだ残されている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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