梅毒患者が過去最高に 悪者にされる感染風俗嬢の本音「元凶は私たちだけじゃない」

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きちんと検査する風俗店、だが例外も

 梅毒の感染拡大の原因に風俗がやり玉にあげられていることについては「否定はしません」という。

「私たちがどんなに気をつけても、結局はお客さんが持ってきちゃいますから。普通の人で定期的に血液検査、性病検査してる人ってゼロに等しいじゃないですか。風俗店は月に一回の検査を義務づけているところも多く、私のように検査に引っ掛かったら、治るまでは出勤停止。普通の女性よりもよっぽど気をつけてはいます。私は梅毒に罹ってから、月に2回、検査に行くようにしています。けどやっぱりお客さんからだと防ぎようがないでしょうね」

 店の評判に繋がる以上、風俗店はしっかり在籍女性の検査をするのが一般的だ。ただし例外があるのも事実だ。

「女性への検査義務がない店もあるにはあります。以前、別の地方に出稼ぎにいったのが、たまたまそういう店でした。そこでは『いつも働いている店で検査に引っかかって働けないから、治療期間だけ出稼ぎに来た』なんて子にも会いました。すぐ店に通報しましたが。そういう店を狙って、梅毒であることを隠して働く子もいます」

 少し前に、バラ疹の出ている写真を個人のSNSで公開していた風俗嬢が特定され、在籍店の名前とともに拡散されたことがあった。その店の検査が甘かったのか、そもそも意図して検査をしていなかったのかは定かではない。が、レベルが低い風俗店もあることはたしか。「イソジンでうがいをすれば大丈夫」とか「グリンス(※殺菌消毒石けん)で性器を洗えばいい」と信じきっている店の人間も少なくない。

 余談だが、私が吉原で働いていた30年ちかく前は、店のスタッフはもちろん、先輩のお姉さんたちが「講習」をしてくれていた。そして「陰部に水ぶくれがあるお客さんは病気の疑いがあるから気をつけてね」等、知恵も授けてくれた。私は風俗のフルコースを体験したが、身体の洗い過ぎでカンジダにしか罹らなかった。

 梅毒の感染拡大の背景に風俗があることは私も否定しない。だが、サナとの共通見解として、近年の患者拡大には別の原因もあると睨んでいる。

梅毒増加と前後して増加したのが……

 それは「パパ活女子」だ。サナがいう。

「風俗は感染したら店側から働かないでといわれますけれど、パパ活の子たちはやろうと思えば仕事を続けられちゃう。男性とも一回きりの関係が多いから、仮にうつしても、足跡を残さず逃げることができます。男性にしても、風俗ではない、“素人”の女性からまさか病気をうつされるとは思っておらず、異変を感じてもすぐに病院に行かないのでは」

 パパ活女子に取材をする機会もあるが、定期的に検査に行っている、などと言う話は聞いたことがない。むしろ、そうした手間やノルマもなく手軽に稼げることがパパ活のメリットなのだから、わざわざ検査に行く女性は皆無だろう。

 梅毒の増加が取り沙汰されるようになったのは2015年頃とされる。以前、ギャラ飲みやパパ活を募るグループの初期の関係者に取材したが、16年頃から始まったと証言していた。時期が一致するのだ(別記事「『札束を抜き取る女』が波紋、ギャラ飲みはいかにして生まれたのか “発祥の地”の店主が語る知られざる歴史」参照)。

 サナのパパ活女子に対する視線は冷たい。

「病気ひとつとっても、彼女たちは意識が低いわけですよ。風俗嬢にはサービスを売っているというプライドがありますが、彼女たちにはそれもない。お店の後ろ盾がないところで身体を売って、危ない目にあってもおかしくないのに。私をふくめ、風俗嬢はパパ活の女の子を嫌悪していますよ」

 口には出さなかったもの“私たちの仕事を邪魔するな”という思いが見え隠れしている。

 もっとも、サナのような出稼ぎ女性は基本的に短期就労で、今しか会えない『プレミア感』を売りに仕事をする。特別扱いに慣れている分、セミプロのようなパパ活女子が許せない気持ちがことさら強いのだろう。ただ、パパ活女子はパパ活女子で、「マジ」になって身体を売るサナのような存在を下に見ている思いがあるにはある。風俗嬢とパパ活女子の間には明確な溝があるわけだ(実際は風俗とパパ活を兼ねている女性も少なくないのだが)。

 とはいえ「パパ活」という聞こえの良い言葉が、売春のハードルを下げたことは事実である。気軽に身体を売る女性がいて、それを平気で買う男性がいる。そんな倫理観の欠如が、いまの日本にはびこる梅毒以上の“病”なのかもしれない。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna

デイリー新潮編集部

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