「日本人の7割は遺伝的に不安に陥りやすい」 特に注意すべきは「権力を持った高齢男性」…健康長寿を阻む孤独にどう立ち向かう?

ドクター新潮 ライフ

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 人生100年時代、私たちは常に体のケアを意識せざるを得ない。しかし、どんなに運動し、食事に気を付けたところで、心臓発作のリスクを増やし、認知機能の衰えを速めてしまう、ある「悪魔」が存在する。死を招き、健康長寿を阻むもの、その正体は……。【前野隆司/慶應義塾大学大学院教授】

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 暴走老人、わがままじいさん、迷惑ばあさん……。

 病院の受付でごねたり、お店のレジで頑として自分の意見を押し通そうとする高齢者によるトラブルが問題視されることがあります。「不機嫌な老人」が増えているわけです。実際、次のようなデータが存在します。

・1989年―2.1%

・2020年―22.8%

 これは法務省の犯罪白書からとった、刑法犯の検挙者における65歳以上の高齢者が占める割合です。高齢者の数そのものが増えていることもありますが、それにしても多い。なぜ、このような事態が起きているのでしょうか。

 加齢に伴い脳の前頭葉の機能が低下し、判断ミスが起きたり、感情をコントロールできなくなるといった要因も考えられるでしょう。

 一方で、これほど増えている現状を脳の問題だけでは説明しにくく、社会的な背景にも起因していると考えられます。それは、現代を覆っている「孤独」です。単身者、とりわけ単身高齢者が増え、孤独による寂寞感が注視されています。こうした感情は人をネガティブな方向に走らせてしまいがちです。

 しかし、必ずしも「単身=孤独」とは言い切れません。ひとりであっても、寂しくも、悲しくもなく、楽しく生きている人はいます。したがって現代日本の問題は、正確には「孤独という状態」ではなく、「孤独感という感情」といえます。高齢化、単身化が進むなか、私たちはどのようにしたら「孤独感」を解消できるのでしょうか。

単身高齢者が増えていく未来

〈こう問いかけるのは、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授だ。

 心理学や統計学をもとに「幸福学」を研究している前野教授は、幸福か否かを大きく左右する「孤独」の問題に着目する。

 後述するように「死」をももたらす孤独は、無論、年齢を問わず人をむしばんでいく。とはいえ、「2025年問題」を抱える日本においては、孤独はとりわけ高齢者にとって、快適に生活するための大きな「壁」として立ちはだかっている。

 2025年、団塊の世代が全て75歳以上となり後期高齢者の仲間入りをする。その数、実に約2200万人。日本の4人に1人は後期高齢者という超高齢社会を迎えるのだ。

 生涯未婚率も1980年に男性2.6%、女性4.45%だったものが、2030年には男性29.5%、女性22.5%になると予測される。総世帯数に占める単身世帯の割合も、1980年の19.8%から2035年には37.2%に達すると見られている。

 これらの数字を総合すると、必然的に「単身高齢者」が急増し、孤独がより社会的な重みを増すことになるのである。〉

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