餃子の王将事件 ヒットマン「田中容疑者」はなぜ現場に証拠となる“吸い殻”を残したのか

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、餃子の王将社長射殺事件の現場に残されたタバコの吸い殻について聞いた。

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「王将フードサービス」(京都市山科区)本社の駐車場で大東隆行社長(当時72)が射殺されたのは2013年12月19日。あれから9年後の10月28日、特定危険指定暴力団「工藤会」系幹部の田中幸雄容疑者が殺人と銃刀法違反の疑いで逮捕された。

 田中は2018年6月、福岡市内で大手ゼネコン社員が乗った車を銃撃したことで逮捕され、懲役10年の実刑判決が確定し、福岡刑務所で服役中だった。

プロも緊張する

 逮捕の重要な証拠となったのが、駐車場近くの建物脇の通路に捨てられていたタバコの吸い殻だった。専門家がタバコの燃焼状況を鑑定。その結果、湿った路面で消されたもので、現場の通路と推定された。事件当時、殺害現場の路面は雨で濡れていた。吸い殻に付着したDNAも田中のものと一致した。

「田中は、なぜ現場にタバコの吸い殻を残したのか、とよくメディアの方から質問されます」

 と語るのは、勝丸氏。

「彼は、大東社長の胸や腹などに25口径の拳銃で銃弾を4発撃ち込んでいます。間違いなくプロのヒットマンです。犯行に使われた25口径の拳銃は手のひらサイズの小さな拳銃ですが、それでも撃ったときの反動がありますから、4発すべて急所に命中させるのは難しいのです。頭を撃たず胸や腹を狙ったのは、相手を苦しませるためだった可能性もあります。いずれにしても、そんな男が証拠となるタバコの吸い殻を現場に残したのはおかしいと思われるのは当然でしょう。でも、私に言わせれば、それも珍しいことではありません」

 産経新聞によると、田中は事件の2カ月前から周到な準備をしていた。知人から借りた軽乗用車で、九州と京都を複数回往復していたことが確認されているという。かなり計画的な犯行なのに、吸い殻を残すとは、少々間の抜けた話だ。

「ヒットマンといえども、犯行の前は緊張します。あるいは訓練を受けたスパイもそうですが、殺人というのは非日常の行為です。やはり実行するとなると覚悟が必要です。平常心ではいられません」

 2019年4月、スリランカでイスラム過激派による連続爆破テロ事件が起きた。自爆犯の一人は緊張のあまり、当初狙っていた教会を爆破できなかった。

「自爆テロをやるにあたって、この男はすごく緊張していたため顔がひきつっていました。その様子に気づいた教会の警備員は、不審に思って職務質問をしようとしたところ、逃げだしたそうです。自爆テロと殺人を一概に比較はできませんが、どちらも犯行直前は極限の緊張状態になることは間違いありません」

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