米軍がウクライナで武器横流し対策を開始 ロシアと直接対決のリスクも高まる

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 11月1日付ワシントンポストは「米国防総省は、ウクライナに供与した兵器が違法に転用されていないことを確認するための取り組みとして、ウクライナの武器管理庫への立ち入り検査(査察)を開始した」と報じた。

 ロシアのウクライナ侵攻以降、米軍が大使館の保護以外の目的で活動を開始したのは今回が初めてだ。

 査察がどこで行われたかについて明らかにしていないものの、米国防総省は「治安の状況が許す限り、供与された武器の査察を実施する」としている。

 米国政府はこれまで「ウクライナに供与される武器は、ウクライナに入国直前に詳細な記録を残し、入国後は前線までの追跡をしっかり行っている」と説明し、武器管理のあり方に問題はないとの姿勢をとってきた。

 だが、米議会で野党・共和党を中心にウクライナに供与した武器(約180億ドル)に対する監視強化を求める声が上がっており、オースティン国防長官はウクライナ側と武器管理の強化について議論していた。

 米国防総省は「今回の査察で米国が供与した武器がウクライナで転用されたことを示す確かな証拠はなかった。ウクライナ側は武器管理の能力を有している」としているが、はたしてそうだろうか。

 米軍は首都キーウの米国大使館と協力して査察を行っているが、紛争が激しい地域で武器の管理状況を把握することは容易ではない。「ウクライナ軍に対して研修を行い、米兵が近づくことができない前線での状況把握を万全にする」と米軍が釈明しているように、公式見解と実態の間に乖離があるのは明らかだ。

逃走資金確保のために…

 このような状況について、ロシアは以前から警告を発してきた。

 西側諸国からウクライナに供与された武器は、大砲システム700基、ミサイルシステム8万基、砲弾80万個、弾薬9000万発などだ。

 ロシアは「これらの兵器のかなりの部分が既に闇市場に流れ、いずれ中東や中央アフリカ、東南アジアのテロリストや犯罪グループの手にわたることになる」と主張している。

 ロシアの非難について米国は「裏付ける証拠がない」と一蹴しているが、欧州刑事警察機構(ユーロポール)は今年7月「確立された密輸ルートやオンラインプラットフォームを通じ、ウクライナから欧州連合(EU)域内に武器や爆発物が横流しされる恐れが高い」と警告を発していた。欧州地域では1990年代のユーゴスラビア内戦時に同様の事態が起きていたからだ。

 残念ながら、ユーロポールの憂いは現実になりつつある。

 フィンランド政府の組織犯罪取締責任者は10月末「ウクライナに供与された武器が横流しされ、そのいくつかがフィンランド国内で見つかった。犯罪グループが武器を横流しするルートをフィンランドとポーランドとの間で既に築き上げた」との見解を示した(11月3日付ZeroHedge)。

 戦禍を逃れてポーランド国境に押し寄せたウクライナ避難民が逃走資金を確保するため、持参した武器を国境で売却するケースが急増していることなどが関係している。

 横流しされているのは機関銃などの小火器などが中心だが、これらの武器が見つかっているのはフィンランドだけではない。スウェーデンやデンマーク、オランダでも同様の事例が報告されているという。

「スティンガー地対空ミサイルやジャベリン対戦車砲が闇サイトで売り買いされている」との情報があり、このような殺傷性の高い武器が犯罪グループの手で大量に横流しされるのは時間の問題なのかもしれない。欧州の当局者は「今後長期にわたり治安が悪化する」と頭を悩ませている。

 米国防総省がウクライナに供与した武器の管理強化にようやく乗り出した背景には、治安悪化を問題視する欧州からの強い要請があったことは間違いないだろう。

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