メイド・イン・ジャパンの高品質パソコンを再び世界に――山野正樹(VAIO代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 ソニーが手掛けたパソコンとして業界に新風を吹き込んだ「VAIO」。だが8年前に不採算事業として切り離され、その後は独自で再建の道を探ってきた。そしていま、VAIOは完全に再生し、黒字企業に変貌した。そこではどのような経営が行われたのか。復活の歩みと今後の展望を聞いた。

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佐藤 今年は日本でVAIOが誕生して25周年ですね。発売当時はソニーが作るパソコンとして大きな注目を集めました。その後、2014年にソニーから独立して新たな会社となり、山野さんはその5代目の社長になります。

山野 はい、2021年に就任しました。

佐藤 実は私は1997年から99年まで、自宅用パソコンがVAIOでした。

山野 出始めの早い時期に購入されたのですね。

佐藤 でもそのパソコンが盗まれてしまって、以来、縁遠くなっているんです。資料を拝見したら、いまは法人向けが中心なのですね。

山野 ソニー時代は圧倒的にコンシューマー(消費者)向けでしたが、いまは4分の3が法人向け、4分の1がコンシューマー向けです。みなさんが思われているより、法人向けの比率が高いんですよ。

佐藤 戦略として法人にシフトされたのですか。

山野 はい。ソニー時代は拡大路線で、海外も含めてボリュームを追求していたんですね。その結果、商品の人気はあったのですが、末期には流通在庫が増えるなど、かなり経営的に苦しい状態になりました。そこでソニーは苦渋の決断で、カーブアウト(切り出し)した。

佐藤 確かにソニーから離れる時でも人気はありましたよ。

山野 そうなんです。ただ独立するにあたって赤字を背負ったままでは立ち行きませんから、二つの方針を定めました。一つは海外での販売をやめる。そしてもう一つが、コンシューマー向けから法人向けにシフトする。この二つを進めて徹底的にスリムダウンしたので、独立した事業体としてやっていけるようになったんです。

佐藤 どうしてコンシューマーでなく、法人向けだったのですか。

山野 その頃、パソコンの位置付けが変わってきたんですね。昔はパソコンに代わるものはなく、ひとつ新機能が加わるたび、みんなワクワクしましたよね。カメラが搭載されて、写メが送れるだけでもすごい、という時代がありました。それがスマートフォンが登場し、一台で何でも事足りるようになってしまった。

佐藤 だから最近は、キーボードを打てない人もいますよね。スマホではフリック入力しますから。

山野 そうですね。そんな時代になってきたので、コンシューマー向けでは、購買層が限定的になる。一方、ビジネスの需要はきちんとあったんです。

佐藤 コンシューマー向けと法人向けでは、パソコンの設計思想が違ってきませんか。

山野 まったく違います。コンシューマー向けは、先ほどお話ししたように「新しい機能を搭載しました」とか「世界初の技術を取り入れました」といった要素がアピールポイントになるんですね。一方、法人にとっては品質の高さ、堅牢性、壊れにくさが重要です。

佐藤 まず使う時間の長さが違う。

山野 ビジネスだと、3~4年間、朝から晩までずっと使い続けることになります。ここで求められる強度はコンシューマー向けとは比較になりません。

佐藤 私も1日に最低5~6時間は使います。法人向けの製品のほうがいいかもしれないですね。

山野 法人向けにシフトした頃、キーボードのキートップが外れるという事故が立て続けに起きたことがありました。

佐藤 2~3年、同じパソコンを使っていると、外れることがありますね。何度も経験しています。

山野 ヘビーユーザーにはそうしたことが起きます。キーボードのキーの下部分は、電車のパンタグラフのような構造になっていて、それが金属で留められています。そこが経年劣化するんです。ですから、その部品を金属からプラスチックに変えました。するとキートップが外れる事故は劇的に減りました。ただそれで皆無になったわけではない。次にキーの部分とパームレスト(手首を置く場所)の隙間を極限まで小さくし、爪が入りにくくした。そうしたら外れることが、ほぼなくなりました。

佐藤 それは法人向けだけですか。

山野 いえ、コンシューマー向けにも導入しています。法人向けで高めた技術をコンシューマー向けにも使っていますから、そちらも格段にクオリティーが高い製品になっていると思います。

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