バルト人が日本に持ち込んだ偽米ドル札 北朝鮮ではない“意外な製造国”とは

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、日本に持ち込まれた偽米ドル札について聞いた。

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 勝丸氏は、かつて各国の大使館や領事館と警視庁との連絡役を任っていた。今回はその時の話である。

「バルト三国のある大使から、相談したいことがあると連絡が来ました。2011年頃のことです」

 と語るのは、勝丸氏。

「日本に就業ビザで滞在していた自国の男性が、偽米ドル札を使っていたことが発覚して逮捕されたというのです。大使は、彼がどういう処分を受けるのか知りたがっていました」

チェチェン製偽米ドル札

 警視庁は、偽米ドル札の入手先を捜査した。

「偽米ドル札というと、一般的に『スーパーノート』や『スーパーダラー』と呼ばれる北朝鮮製が有名です。北朝鮮は2007年に55億円相当の偽米ドル札を流通させ、30億円を稼いだと言われています」

 ところが、問題の偽札を精査してみると、北朝鮮のものとは違うことが判明した。

「アメリカで偽札の捜査をするのは、国土安全保障省の傘下にあるシークレットサービスです。シークレットサービスというと、ボディーガードを連想させますが、1865年7月、南北戦争時に偽造通貨を取り締まるためにつくられた米国最初の諜報機関です。FBIの前身です」

 シークレットサービスは大統領の警護も行うが、世界中の偽米ドル札をすべて調査しているという。

「日本にはシークレットサービスの出先機関はないので、ハワイのホノルル支局に件の偽米ドル札を照会してもらったのです。すると、偽札は意外にもチェチェン共和国で製造されたものだと判明しました」

 チェチェンは、精巧な偽米ドル札をつくる“産地”として知られているという。

「日本では知られていませんが、チェチェン製は世界各地で使われています。ただし、これまで日本国内で出回ったことはありませんでした」

 警視庁は、他にチェチェン製の偽米ドル札が国内で流通していないか捜査した。

「バルト三国は旧ソ連の領土でしたから、義務教育で今もロシア語が教えられています。逮捕された男は、チェチェン人と接触していた可能性があります」

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