サンマが高級魚になってしまった悲しい現実 昔は1匹100円以下だったのに(中川淳一郎)

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 いやはや、参りましたわ。サンマですよ。すっかり高級魚になってしまいました。かつてスーパーでは1匹78円とかで、乱雑に氷の上に積み上げられていたのですが、今や秋でも店に売っていないことが多い。売っていても、前年の冷凍塩漬けのものだったりする。

 先日ようやく売っているのを見つけたものの、1匹250円のゴージャス価格で、しかもだいぶ瘦せている。かつて腹がパンパンに膨らんで、見事に巨大な苦い内臓を食べるのが至福だったのに、すっかり細って内臓が充実していない。それでも「たまにはぜいたくするか」と購入。サンマの塩焼きはおいしかったですが、恐らくこの1回が今年唯一のサンマを食べる機会でしょう。

 次にスーパーでサンマと出会う時は379円とかで、さらに身が細くなっているかもしれません。まぁ、仕方がない。水温の影響やら中国・台湾がサンマを取りまくっていることとかが影響しているのでしょうが、「サンマは日本固有の焼き魚文化である!」なんて今さら主張できるわけもない。

 そう考えると、日本に来る外国人観光客においしいものを食べさせまくるのもどうかな、と思うこともあるんですよ。2019年時点でインバウンド消費は過去最大の4.8兆円。名目GDPの約1%ですし、日本人の国内旅行消費額は約22兆円。

 かつてのソ連ではウニがタダ同然の価格で取引されていたようですが、日本人が「これはウマいんですよ!」と主張したところ、ロシア産も値上がりしたという例があります。

 私が若い頃、アメリカで「なんでお前ら日本人は魚なんて食うんだ。牛肉の方が圧倒的にウマいだろ」と言われたものです。「はいはい、魚のウマさを知らずに牛肉礼賛していてくださいね(笑)」なんて思っていたのですが、今や世界中で魚は人気でサンマも高級品になってしまった。

 本当に2015年ぐらいまでサンマは安く、1シーズンに20回ぐらいは食べていました。サンマって楽しいんですよね。内臓と身の部分にポッカレモンと醤油をかけた大根おろしをつけ、ご飯にのせてから海苔で巻いて食べる。あぁ、有明海の海苔、最高ですね。あと、身のうまみと内臓の苦み、最高ですね。おっと、肝臓は最後まで取っておきますよ──そういった楽しみ方ができる魚です。

 明らかに焼き魚の中でも楽しむバリエーションが豊富。鮭の切り身であれば、基本(1)脂が多い部分(2)赤くなった部分(3)皮、だけです。食べている途中で若干飽きてしまうのですが、サンマは最後までどのような戦略で食べきるかを考えることができる素晴らしい食材。

 10月9日、東京・目黒で「さんま祭り」が3年ぶりに開催。仕入れが困難だったようで、通常は5千匹を焼くのが、今回は目黒区民限定で千匹となり、9千人からの応募があったそうです。

 テレ朝のニュースで取材された行列の先頭の高齢女性は「今の気持ち」を聞かれ「ワクワクよ。もうこんな高級魚、食べられないから」と答えていました。円安や低賃金もあり、今後日本で生活するのはキツいかもしれませんね。サンマが「高級魚」になってしまったのですから。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年11月3日号掲載

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