金正日は真夜中に鹿を撃つアントニオ猪木をこっそり見ていた…平壌市民38万人を集めたプロレス興行秘話

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計算高い男

 イベント初日も金正日の姿を探したけど、見つかりませんでした。その日、私と猪木は会場を早めに引き揚げた。関係者口から出ようとすると、軍隊や警官らしき人がズラリと並んで、誰かを見送っているのが分かりました。近くにいた関係者に「これか?」と親指を立て、金正日かどうか確認しようとした。が、彼らはニヤッと笑うだけでした。あれは、きっと金正日だったと思います。

 興行が終わった翌日には、「大夜会」といって、金日成広場でダンスパーティーが開催されました。その時、最後のあいさつで金容淳が「今回、猪木さんが大活躍してくれた。そして、たった一人の日本人が陰で全部やってくれた」と私のことを褒めてくれた。あの時は、すごく嬉しかったな。

〈38万人の平壌市民を集めた初のプロレス興行に、金正日も満足したはずである。猪木氏は、これを機に北から信頼され、その後も訪朝するようになった。もっとも、昨年11月の訪朝は参院の許可なしに強行。その後、30日の登院停止処分を下されるなど、独断専行で日朝関係を混乱させているとの指摘も少なくない。〉

 当時、猪木はスポーツ平和党の参院議員でした。ところが、同じ95年7月の参院選で落選。それでも、北は一度信用すると、とことん付き合う国です。たとえ議員バッジを外そうと、猪木との付き合いは続けた。

 あの頃、彼はビジネスにも目が向いていたね。興行が終わってすぐ後に、韓国から北のハイウェイに、発電機を設置して電灯をつけたこともあった。あっちはレアメタルが採れるので、鉱山にも行きました。マツタケやフグの貿易を仕切ろうとしたこともあります。ですが、どれも実現には至らず、ビジネスとして大きな金が入ったことはないでしょう。

 猪木は先日訪朝した際、北から今夏、私がやった95年の時よりさらに大きな規模のイベントをやりたいと言われたそうです。しかし、当時と違って、日本は現在、北に経済制裁を行っている。そんな中、北で行うイベントのために資金を工面するのは至難の業。加えて、裏で仕切れる者もなかなか見当たらない。今のところ、95年と同じようにやるのは厳しいのではないか。

 猪木は、ああ見えて、意外と計算高い男ですよ。自分が北に利用されていることは承知の上だし、日本政府も自分を利用すればいいと思っているはずです。

 北からどんなことを言われたか、肝心な話は公の場ではしません。口が堅い分、向こうからも信用されている。猪木だからといって、軽く見ない方がいいと思いますね。

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