ロシア寄りのイーロン・マスク氏に頭を抱えるバイデン政権 影響力を削ごうと画策

国際

  • ブックマーク

Advertisement

 米中間選挙が間近に迫る中、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援のあり方が争点の1つに浮上している。

 バイデン政権がウクライナに行った軍事支援の総額は176億ドルに上る。米国が単年度で一国に実施した軍事援助としてはベトナム戦争以降で最大規模だ。

 一方、野党・共和党は巨額予算の修正を要求している。共和党下院トップのマッカーシー院内総務は10月18日「人々は不況にあえいでいる。ウクライナは重要だが、白紙小切手は出せない」と述べ、中間選挙後に支援を縮小させる考えを示した。

 米ピュー・リサーチ・センターが9月に実施した世論調査によれば、共和党支持層の32%がウクライナ支援を「過剰」と回答している。3月時点の調査で9%だった「過剰」の割合が急上昇しており、共和党としては党勢拡大のためにウクライナ支援のあり方に疑問を呈しているのだろう。

 民主党内も一枚岩ではない。

 民主党リベラル派のジャヤパル氏ら30人の下院議員は10月24日、ウクライナへの巨額の軍事支援の修正を求めるとともに、「ロシアと対話するかしないかはウクライナ政府が決める」とするバイデン政権に対し、ロシアとの直接対話を要請する旨の提言を発表した。だが、「この提言は共和党を利することになる」と民主党内で猛反発が起き、ジャヤパル氏は翌25日に提言の撤回を余儀なくされた。民主党内でもウクライナ支援を巡る考え方が一枚岩でない現状が浮き彫りになった形だ。

 下院選では共和党が多数を奪還することが確実視され、上院でも共和党が多数を占めるとの見方が出てきており、バイデン政権は中間選挙後に対ロシア政策の再考を迫られる可能性が生じている。

 バイデン政権にとっての懸念材料は議会の動向だけではない。

 米電気自動車大手テスラCEOなどを務め、その発言が世界的に注目されているイーロン・マスク氏がこのところ、「ロシア寄り」と受け止められる発言を行っていることも頭痛の種となっている。

戦争終結計画を提案

 マスク氏は10月3日、ツイッターで自らウクライナにおける戦争終結計画を提案し、ユーザーに対してその是非を問うた。

 具体的な内容は以下の通りだ。
(1)ロシアが一方的に併合したウクライナ4州については、国連の監視による選挙を通じて改めて住民の意志を問い、住民から「ノー」の意志が示されればロシアは立ち退く。
(2)ロシアが2014年に強制的に自国の領土としたクリミア半島を正式なロシアの一部として承認し、クリミアへの水資源供給を保障した上で、ウクライナが中立を堅持する。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はこの提案に猛反発したが、ロシアは「とても前向きだ」と歓迎した。

 マスク氏はウクライナ支持派を自認している。マスク氏がCEOを務める米宇宙開発企業スペースXは、ウクライナにスターリンク(人工衛星を使った高速ブロードバンドインターネットサービス)を無償で提供し(これまでに8000万ドル以上の費用を負担)、ロシアの侵攻を受けたウクライナの通信の早期復旧に貢献した実績がある。

 そのマスク氏がウクライナ側の不評を買うことを承知の上でこのような提案を行ったのは「ロシアの人口はウクライナの3倍以上で、ウクライナが全面戦争で勝利する公算は乏しい。何百万人もが必要のない死を迎えてしまうことを本当に心配している。ウクライナ国民の身の上を案じるならば和平を求めるのが当然だ」と考えたからだ。

 マスク氏の主張は、ロシアへの強硬姿勢を続けるバイデン政権にとって受け入れがたいものだ。米国政府は長年、マスク氏のリスクの高い事業に大金をつぎ込み、政府との独占的な契約を与えてきたが、同氏は最近、バイデン大統領と公然と対立する一方、海外の要人と頻繁に連絡を取り合うようになっている。バイデン政権は「マスク氏が国際問題に対して影響力を持ち過ぎている」と懸念し始めているようだ。

次ページ:ツイッター買収を問題視?

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。