韓国・梨泰院雑踏事故で思い出す「明石歩道橋事故」 遺族は「『行った人が悪い』は大きな間違い」

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誰もが遭遇する可能性がある

 9歳の長女・千晴ちゃんと7歳の長男・大ちゃんを歩道橋事故で亡くした有馬正春さん(63)ら遺族は、この夏、歩道橋事故やその後の裁判を克明に記した『明石歩道橋事故 再発防止を願って ~隠された真相 諦めなかった遺族たちと弁護団の闘いの記録』(神戸新聞総合出版センター)を上梓した。

 有馬さんと共に編集作業の中心的役割を担った白井義道さん(62)は、歩道橋事故で75歳だった母・トミコさんを亡くした。

 白井さんは「明石市が主催した花火大会と違ってソウルのハロウィーンは、自然発生的に集まるので主催者がはっきりしません。とはいえ、ハロウィーンで大勢の若者が集まるのは最近の風潮なので、こうした事故の予見性が最も重要。おそらく韓国の警察などは予見性の認識が甘かったのでは」と見る。

「本を出した直後にこんな事故が隣国で起きたのは悔しい」と話す白井さんは、「『混雑する場所に行った人が悪い』と言う人もいますが、大きな間違いです。誰しもハロィーンや花火を楽しもうとして現場に行っただけで、そんなことが起きるなんて想像もしないでしょう」と訴える。歩道橋事故の遺族たちには、当時から「幼い子をそんなところに連れて行くからや、自業自得」などという中傷もあった。

 前述の有馬さんも強調する。

「私たちは事故が起きるまで普通の市民でしたが、事故で生活が一変してしまった。こうした事故は誰もが遭遇する可能性があるのです」

ちょっとしたことでも群衆事故につながる

 最近でも群衆事故の一歩手前だった事案がある。今年8月11日、京都府亀岡市のJR亀岡駅で保津川の花火大会の見物客が駅に溢れ、怒号が飛び交う様子がTwitterなどに投稿された。線路に人が立ち入り、電車がストップしたのが原因とも報じられたが、幸い、群衆事故は回避した。

 白井さんは「人が立ち入らなくても電車がストップすることなどいくらでもある。ちょっとしたことでも群衆事故につながるのです」と指摘する。

 2000年12月、筆者と妻は小学生だった2人の子を連れ、阪神淡路大震災の犠牲者を鎮魂する神戸市のイベント「ルミナリエ」を見に行った。夕方のイルミネーションが点灯する瞬間が特に人気があり、時間を合わせて会場に向かったが、次第に列がものすごい圧力になってちっとも進まない。「崩れでもしたら子供が大怪我するぞ」と危険を感じ、咄嗟に脇へ子供を引っ張り出して飲食店に入り、イルミネーションが点灯する瞬間を見るのを断念した。

 ルミナリエで群衆事故が起きたわけではないが、翌年、明石の歩道橋事故が起きた。その年からルミナリエでも、会場に向かうまでに長い導線を築き、群衆事故の対策を行っている。

 群衆事故は白井さんが言うように「予見可能性」を持った行政がしっかりした対策を取れば防げる。まずは今回の犠牲者に哀悼の意を表したい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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