暴言で引退の泉房穂・明石市長 殺害予告が100件超でもめげず…駆り立てた“原体験”

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ツイッターを始めたワケと“殺人予告”

 私が泉氏の施策で一番記憶に残っているのは、2021年暮れ、明石市が独自で「旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び、支援に関する条例」を制定したことだ。優性思想に基づく断種法とも非難された優生保護法の被害実態に関し、国が否を認めようとしないなかで、明石市は先行して独自に支援金の給付を決めた。が、そこにも紆余曲折があった。

 市政関係者によると、障害者支援や子育て支援に充てるために公共事業予算をカットする泉氏の姿勢には、かねて議会に反対があったという。だが、条例はどうにか可決され、泉氏は12月にツイッターを始めている。 SNSのスタートには大きな意味を込めたという。

「このときも公明党が条例否決の方向で動き、もうダメかなと思いました。でも、障害者団体の方々の頑張りでどうにか可決させることができました。このときに自分の中で、よう通ったなぁ、ありがとう、これで市長としての任務がほぼ終わったかなと……。そんな感情が渦巻いて、思わず涙が出てきました」

「やさしい社会を明石からという思いで11年半やってきて、もうこれ以上はしんどいな、と正直、条例可決後に思いました。ツイッターについては10年前からやりたいなとは思ってましたが、周りから止められてたんです。炎上するの、わかってますやん(笑)。でも去年の12月をもって事実上、明石市で私ができることは終わった。そう感じてたもんで、完全にこれまでとは逆に舵を切って、明石でやってきたことを紹介したいと思ってツイッターを始めたワケです」

 泉氏を有名にしたのは紛れもない、2017年の舌禍事件である。国道の拡張工事にあたって必要な土地の立ち退き交渉が難航。この件を担当していた職員に「火つけて捕まってこい、お前、燃やしてまえ」などと暴言を吐いた責任をとって辞職。直後の出直し選挙ではしかし、人口や税収が増えた成果が市民に評価され、7割の得票数で再選を果たした。その後も自らの発言でメディアを賑わすことはあったが、忘れてはならないのは、その言が市民ではなく行政に向けたものばかりであることだ。

 もちろん、パワハラがご法度であることは言わずもがな。しかし、パワハラ騒動が前面に報じられるあまり、泉氏の施策がすべて忘れ去られてしまうのももったいない。

 特に泉氏は、子育て世帯からは絶大とも言える人気を誇っていた。高校生までは医療費無料に、第2子からは保育料が無料、0歳児への「おむつ定期便」も有名だ。これら独自の施策を知り、明石市にわざわざ引っ越す人もいた。結果、明石市を9年連続の人口増に転じさせ、税収も30億円以上増やすなど成果を上げてきたのは事実だ。

「リアリティがあるのが大きいんでしょうね。私、昔から家の家事、特に“名もなき家事”をやるのが好きなんです。この前も乾電池を単一から単四まで買い揃えて、シャンプーやリンスの予備も揃えてね。子どもが小さいころに育児に関わってたことも影響してますね 。週に1回は私が当番で徹夜して2時間おきに妻に代わってミルクをあげてました。週1回でもキツいことやのに、これを毎日となったらもう私にはお手上げです。でも、その経験が子育て政策に活きてるんやと思ってます。お母さんは、育児が大変やと孤立無援になる。それをなんとかする、その生活リアリティが活きてると。そのリアリティの有り無しで、政治判断が違うてくるんですわ」

 だが、議会との軋轢はついて回った。今回の騒動の発端となった問責決議案は、商品券配布の際の専決処分のほか「秘密の漏洩」も問題視された。市内に工場を有するある企業の課税情報をツイッターで公開したことが、地方税法の禁じる秘密の漏洩に当たるとされたのだ。が、「モノ言う市長」との評を得た自らの実績には、なお強い自負をのぞかせる。

「市長になったら、過剰な公共事業を削って、無駄遣いのお金を子どもや福祉にシフトしようと大学生の頃から思っていました。そして実際市長になり、下水道予算600億円を150億円に適正化したことにはじまって公共事業を3割減らし、子ども予算を126億円から258億円に倍増させました。

 そこには無駄があったワケですわ。残念ながら国も県も市もまだまだ無駄だらけです。明石が別に特別なことをやってるわけではなくてね、ヨーロッパをマネてるだけ。明石市の予算配分はOECDの平均的な予算配分なんです。イギリスやフランスやスウェーデンなどのGDP対比の子ども予算の割合は約3%、一方、日本は1.6%しかない。こんなに経済成長していないのだって日本だけ。その理由は明確で、予算配分が間違っとるからです。子どもや福祉に使わず、公共事業にばっかり予算かけてるから国民、市民は疲弊していっとるんです」

 議会との軋轢だけでならまだよかろう。さしもの泉氏も、市に寄せられる「殺人予告」には恐怖を禁じ得ないようだ。

「今に始まったことじゃありません。殺害予告は市長になり公共事業を削減しはじめた頃からずっと続いています。『殺す』とか『天誅下る』とか書かれた手紙が自宅のポストに投げ込まれたり、生き物の死骸を玄関前に置かれたりもしました。最近その数は増え、『市長を辞めないと殺す』という脅迫のメールが百何十通も送りつけられています。現在、警察に被害届を出して、自宅周辺に監視カメラをつけていただいたり、毎日パトカーが自宅の周りを回ってくれたりもしています」

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