スティーブ・ジョブズは、なにがなんでもイサム・ノグチが欲しかった!

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スティーブ・ジョブズとイサム・ノグチ。20世紀を駆け抜けた2人の天才は、ともに日本と深い関わりを持っていた。果たして2人の繋がりは? サンフランシスコで、京都で、シリコンバレーで、散りばめられた事実から、ついに結ばれた点と線! 【柳田由紀子/アメリカ在住ライター】

やはりイサム・ノグチを追っていたジョブズ

 スティーブ・ジョブズ(1955~2011)が、イサム・ノグチ(1904~1988)に関心がないはずはないとずっと思っていた。経営者でありながら、自社、アップルの製品創りに過剰なほど深く関わったジョブズ。彼が追求したデザインは、ムダを削ぎ落とした静謐な美に満ちていた。一方のノグチは、彫刻、舞台美術、ランドスケープデザインなど、多岐にわたる分野で比類ない才能を発揮した20世紀を代表する芸術家だ。米国人の母と日本人の父の間に生まれ、米国人として生きたノグチの芸術には、日本の文化や伝統が重要な示唆を与え続けた。

 ジョブズにとっても日本は特別な国だった。若い頃から禅に親しみ、やきものや新版画など日本美術を蒐集したことで知られる。ところが、ジョブズとノグチの繋がりが長いこと見えてこなかった。だが、やはりジョブズはノグチを追いかけていたのである。サンフランシスコの「ギャラリー・ジャポネスク」オーナー、原孝一さんが語る。

「1990年代のはじめに、スティーブから、『イサム・ノグチの石彫作品を入手して欲しい』と頼まれました。アップルから一度追放された彼が、ネクスト社のCEOだった頃のことです」

 原さんは82年に留学のため渡米。当時は、全米でテレビシリーズ「将軍 SHŌGUN」が大ヒットした影響で、「街中におかしな日本が溢れていた」。義憤を感じた原さんがギャラリーを開き、書家の井上有一作品ほか、日本の現代アートや良質な工芸品を扱い始めると、「本物の日本を求める人々」が自然に集うようになった。ジョブズもそんなひとりだった。

「スティーブは、毎週末に来ていた時期もありますよ」

 ジョブズからノグチの石彫作品を依頼された原さんは可能性を探ったが、その時点ですぐに入手できるのはブロンズ作品だけと知る。

「でも、スティーブは『石じゃなきゃダメだ!』と。だけど、僕は彼のお使いさんじゃないしね、それ以上、彼のためにノグチを追いかけはしなかった」

愛用した飛騨地方の和蝋燭

 それでも、ジョブズは原さんのギャラリーに通い続けた。

「飛騨地方の職人が作る和蝋燭(ろうそく)を気に入って、亡くなるまでずっと買い求めていました。燃やすと、灯りがあるようなないような微妙な炎が揺れる、日本の陰翳礼讃文化を象徴するかのごとき蝋燭です。ほかに、工芸作家、藤井啓太郎さんの籐籠も何度か購入しています。スティーブは、かつて確かに日常に存在した“あったかい日本”を感じさせるクラフトを、日常生活に取り入れ大切に使い続けているようでした」

 ギャラリー・ジャポネスクはサンフランシスコという土地柄、IT長者など富裕層の顧客も多い。

「ここからここまで全部買う! なんて人もいるんです。また、美術史家や鑑定士を連れてきて、評価を知った上で購入される方もいらっしゃる。一方、スティーブは知名度は度外視。自分が共感できるもの、自分の心の滋養になるものだけを選んでいましたね。僕は、彼のそういう姿勢が好きでした」

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