がん患者をカモにする「最低の治療」に注意せよ 専門医が教える「最高の治療」「最低の治療」(2)

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 自身や身内が「がん」になったとなると、良い治療法を求め、情報を集めようとする、ネット検索をするのは人情というもの。

 しかし、そこで「がんが消えた!」式のPRをしている民間クリニックには要注意だ、と警鐘を鳴らすのは長年がん治療に携わり、またがん関連の情報を積極的に発信し続けている医師の大場大さん(東京目白クリニック院長)。

 大場さんは、新著『最高のがん治療、最低のがん治療 ~日本で横行するエセ医学に騙されるな!~』(扶桑社新書)で、患者や家族が知っておくべき知見を紹介している。 

 大場さんの言うところの「最高の治療」「最低の治療」とは何か。

 2回目の今回は、「最低の治療」についてだ。

 「夢の治療」「副作用なし」といった宣伝文句に惑わされないで、と大場氏は訴える(以下は、『最高のがん治療、最低のがん治療 ~日本で横行するエセ医学に騙されるな!~』の一部を再構成したものです)。

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「がんが消えた!」を疑え

「がんの画期的治療」を謳う民間クリニックではどのような手順で治療が行われているのでしょうか。

 まず治療セミナーと称して、説明会を開催し、そこに来た患者さんやそのご家族たちにもっともらしい理屈を並べて、立派な治療のように錯覚させます。インパクトのある動画に関心を示した人たちは、顧客候補としてリストアップされます。そして「あきらめなくて大丈夫ですよ。必ずよくなります!」「これまでのつらい抗がん剤とは違って、体にやさしいので安心してください」と甘い言葉でささやきます。次に待ち受けているのは、支払わなければいけない高額な「お金」の話です。本来の医療とはかけ離れた言葉巧みな営業戦略というものがあり、すでにこの時点で、うさんくささ満点だといってよいでしょう。

 具体的には、次のような表現がホームページ上に掲載されていたら、そのクリニックはうさんくさいと思ってほぼ間違いないでしょう。

 (例)治療の前後で「がんが消えた」CT写真などを掲載

 治療の効果に関することは広告可能な事項ではなく、治癒や効果を保証すると患者さんに誤認を与える恐れがあり、誇大広告に該当します。また画像検査はいくらでも捏造が可能です。

 (例)世界、あるいは国内初の○○療法

 このような最上級を思わせる文言は受け手である患者さんを誘因し、本当は治療として成り立っていないのに高額な支払いのみが生じてしまうリスクがあります。また、「初」は自由に言えるフレーズですが、本当なら臨床研究として行うべきで、自由診療で患者さんから治療費用を詐取してはいけません。

 (例)○千例、〇万例の屈指の治療件数

 効果が不明な治療であるにもかかわらず、多くの治療件数を強調することによって、優良なクリニック・医療機関であるイメージを暗示するのは、禁止されている比較広告に該当します。また、「○千例、○万例」とはいっても、そのうちの何割の患者さんにどのような効果がみられたのか、逆に副作用はどうであったのか、最も重要な客観的データが存在しない場合がほとんどです。つまり、効果を保証するという誤解を与えかねない誇大広告、場合によっては虚偽にも該当するでしょう。

 (例)○○免疫療法は副作用がなく体にやさしい

 科学的な根拠が乏しい治療法にもかかわらず、免疫力という言葉を巧みに使うのですが、後でご説明する通り、真に免疫系に働きかける治療に副作用はつきものです。翻って、副作用のない治療は、結果的に免疫系に働きかけていないことを意味し、サイエンスが空っぽであることを自ら露呈しているともいえるでしょう。

 本来、がん治療と称する以上は、どこにあっても普遍性をもたないといけません。

 ところが、あるクリニックへ行かないとできない治療、高額な費用を払わないとできない治療ということは、何かが変だと、批判的に吟味する必要があります。

 しかしそうはいっても、心配や不安でいっぱいの患者さんの心理を考えると、藁にもすがりたいという心情は重々理解できます。ただ、もし「ニセの藁」と事前に吟味できていれば、貴重な時間やお金を奪われることなく、ご自分のため、ご家族と過ごす時間のために有意義な使い道はいくらでもあるような気がします。

 ここからは免疫細胞療法の現状について客観的な評価をしてみたいと思います。

副作用がないなんてことはない

 がんの免疫療法は、「免疫チェックポイント阻害薬」の登場によって、現在もなお世界中で大変注目されています。これまで失敗の歴史を繰り返し、うさんくさいものとして扱われてきた免疫療法は、一躍ブレークスルーとなり、手術、抗がん剤治療、放射線治療に次ぐ、治療の第4の柱として脚光を浴びることになりました。

 しかし一言に「免疫」といっても、漠然とした抽象的な意味合いでしかないので、具体的に整理をする必要があります。

「免疫」とは、自分(自己)と自分ではないもの(非自己)を見分けるところから始まります。細菌やウイルスなどの病原体は、外から侵入してくるので完全な非自己ですが、がん細胞は、もともと自己の遺伝子変異の蓄積から生み出された非自己だということです。

 通説では、体内にがん細胞が日々生み出されたとしても、1日に数千個のがん細胞が免疫の力によって体内で排除されているといわれています。ところが、がん細胞も生き残るために、その免疫系から逃れたり、免疫系から目をくらませたりすることで、免疫応答をうまく働かなくさせるように環境を変えようとします。これを「がん免疫編集」といいます。まるで、生存競争に勝ち抜いていくダーウィンの進化論のごとくです。

 そのようにして編集された免疫状態で、がん細胞に免疫応答が働かないように仕向けられたブレーキとしての環境、すなわち「免疫チェックポイント」を解除する目的で登場したのが、免疫チェックポイント阻害薬です。これまでの抗がん剤と異なるのは、がん細胞に直接働きかける薬剤ではなく、がん細胞が生存していくうえで好都合な周りの環境に働きかけるという点です。Tリンパ球(T細胞)に対してブレーキをかけているCTLA-4、PD-1、PD-L1などの免疫チェックポイント分子を標的として、間接的に「細胞傷害性T細胞」の活性化を促します。

 さまざまながん腫に対する臨床試験によって、免疫チェックポイント阻害薬の有効性がしっかりと検証され、なかにはまるで完治したかのように、がんが消失し続けているケースも散見される画期的な薬物治療だといえます。

 ただし、生体の恒常性を健全に保つ機能も重複しているため、免疫チェックポイント阻害薬の使用によってひとたびT細胞が活性化すると、自己免疫性疾患に似た特有の副作用も出てしまいます。時にはその副作用で死亡するケースもあるため、「諸刃の剣」のような薬だともいえます。

 それでも、これまでうさんくさいとされてきた免疫療法が、がんに対してもしっかりと免疫応答が誘導されることが証明されました。現在、多くの製薬企業がしのぎを削って、多くのがん腫に対し免疫療法開発が進められています。

眉唾な素人治療

 一方、誇大な広告を出しているタイプのクリニックで行われている免疫細胞療法の理屈は、免疫の攻撃を高めるアクセル方法がとられています。攻撃を司る「エフェクター細胞」である細胞障害性T細胞、γδ(ガンマデルタ)T細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などを患者さんのリンパ球から採取して、体の外で培養し、エフェクター細胞の数を増やしたり、刺激を加えたりします。

 そうして、がんに対する攻撃力を高めてくれると期待されたものを、再び体に戻す「活性化リンパ球療法」は、養子免疫療法とも言われます。すでに1980年代から2000年代初頭まで実験的に盛んに行われてきましたが、有効性を示すことができず、すでに失敗のレッテルが貼られています。

 ところが、現在でも、当時の「うさんくさい」サイエンス空っぽの残党が、相も変わらず高額な詐欺的免疫療法をクリニックという場で大々的に展開しているわけです。

 それも、「免疫チェックポイント阻害薬」の話をうまく織り交ぜながら、さらには、実際に免疫チェックポイント阻害薬をごく少量でテキトーに使用したりもしています。注意しないといけないのは、そもそもが素人で副作用の管理ができないため、規定されている量ではなく、当てずっぽうなわずかな量のみ交えて投与しているということです。

 筆者はエフェクター細胞の研究を否定しているわけではありません。

 がん組織から腫瘍浸潤リンパ球を分離して、体外で培養し増殖させたあとに、患者さんに戻す「標的抗原エフェクターT細胞療法」は今後、海外の優れた研究者やエキスパート医師らがスクラムを組んで、臨床試験でその有効性が調べられていくはずです。ほかにも、「腫瘍抗原特異的TCR遺伝子導入T細胞輸注療法(TCR-T細胞療法)」や、すでに急性リンパ球性白血病や非ホジキンリンパ腫を含む再発・難治性血液疾患に対して実用化されている「キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞輸注療法」は、まさにT細胞のアクセルを強化した有望な治療です。世間でも非常に高額な免疫療法として話題になりましたが、保険適応疾患の患者さんにとってはとても大切な治療法です。

 しかし注意しないといけないのは、一時期、新型コロナウイルス感染症の重症例で話題になったサイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)や、脳症などの重篤な副作用がときどき起こりうる治療法であることから、ICU(集中治療室)管理が可能な環境下で、高度な専門性を有した血液腫瘍内科医しか現状扱うことができません。

 本当のがん免疫療法は、クリニック治療で宣伝されるように、決して「体にやさしい」「副作用がない」治療ではないということがすでにおわかりでしょう。免疫チェックポイント阻害薬も画期的な治療薬ですが、その有効性を発揮できる患者さんの割合は約2割ほどで、逆に命を奪いかねないようなものも含めて副作用が起きることがしばしばあります。

ワクチン療法も要注意

「がんワクチン療法」についても同様です。がん細胞に対する細胞障害性T細胞の免疫応答は、がん細胞として認識される目印「がん抗原」に対するものであることから、これまでがんペプチドワクチン療法、腫瘍細胞ワクチン、樹状細胞ワクチンなどが試みられてきましたが、その有効性は微々たるもので、単なる経過観察とほぼ等しい「プラセボ効果」程度の有効性しかなかったことが、すでに2000年代初頭に報告されています(NatMed 2004; 10: 909-15)。

 国内に目をやると、多くのがんワクチン療法が眉唾的なインチキ療法にしかみえません。

 ある大学病院が主体となって長年にわたり行われている丸山ワクチンについても同様なことがいえるでしょう。オフィシャルサイトをみると、1964年から50年以上にもわたり暗黙的に使用されていて、2019年12月末までに41万1500人に投与されてきたと記述がありますが、そのワクチンが治療として有効だと示す客観的なエビデンスを見たことがありません。まさにうさんくさいワクチン療法の代表といっていいでしょう。

 一方で、クリニックで行われているワクチン療法の宣伝文句をみると、丸山ワクチンにも当てはまるのですが、「副作用がほとんどない」ことが強調されています。しかし、真の免疫療法とは「諸刃の剣」と申し上げたとおり、必ず、効果とともに副作用も念頭に置かなければいけません。

 一般的にいえることは、クリニックのがん免疫療法に副作用がないのは、「免疫応答が起こっていない」と考えたほうがいいでしょう。もちろん、副作用がないのはいいことに決まっているのですが、実際には現状の医学の進歩では難しいと考えます。ましてや、サイエンスの所在も不明確なクリニック免疫療法は、治療という観点から、患者さんの体内で実は「何も起こっていない」可能性が非常に高いといってよいでしょう。

がん医療ではなく、がんビジネス

 免疫チェックポイント阻害薬とは異なる免疫療法を使用する場合、研究レベルのものとして真面目に安全性と有効性を確認する作業(臨床研究)が行われているのであればまだいいのですが、クリニック治療の場合は、それら倫理的作業を放棄しているばかりか、単価数十万~百万円単位の法外な費用まで患者さんから徴収する始末です。

 これらクリニックに共通するのは、「あらゆるがんに効く」というような誇大な宣伝文句を謳っていることです。

 冷静にみると、がん腫ごとに治療体系はさまざまで、腫瘍(がん)免疫という学問もまだまだ発展途上でわからないことが多々あるのです。さらにはノーベル賞レベルの業績から生まれた免疫チェックポイント阻害薬の効果ですら、例えば膵臓がんでは効果が期待できないように、がんによって解釈が細かく異なるにもかかわらず、サイエンスの拠りどころもない怪しげなクリニックが、なぜそのようなことを言い切れるのでしょうか。

 そして最大の問題は、そのような治療を手がけている医師らの多くが「素人」だということです。おそらくは、進歩し続けている標準治療の実践すらできないレベルでしょう。

 巷の免疫療法クリニックの院長募集要項には「経験不問 年収〇千万円 やさしく患者さんと接するだけ」という条件で人材をリクルートしている求人が出回っています。そうなってくると、むしろ患者さんをマーケットとした黒い「がんビジネス」だといえます。

 もちろん、こうした治療を「もしかしたら効くかもしれない」から受けてみたいという患者さんの気持ちを全否定するつもりはありません。ただ、こうしたクリニックで行われている免疫療法には、高額な自己負担というリスクに見合うリターンはほとんど期待できないでしょう。さらに、高いコストという「経済的副作用」ばかりでなく、患者さんにとって、家族にとって、かけがえのない大切な時間までも奪われてしまいます。「どうしても何かやっておきたい」経済的に余裕のある患者さんにとっては、余計なお世話かもしれませんが。

 また、大手の免疫療法クリニックほど、資本力が潤沢な上位組織の経営傘下にあることがほとんどで、クリニックの院長もいわば雇われの身だといえます。そして、さらに問題なのは、声を大にして宣伝に勤しんでいるクリニック院長や関係者らは、その会社の株を大量に保有しているという蜜月の関係性です。これは、ある種の循環取引であり、医学を扱う者としての公正さや中立性はすでに失われています。利己のために、インチキを貫くしかない悪質な構造が前提にあることを、賢明な読者の皆さんにはぜひ知っておいていただきたいと思います。さらに、名のあるがん専門センター病院の要職に就いていた人物らのリタイア後の天下り先になっている大手クリニックもあるので、心配や不安でいっぱいの患者さんには、本物と偽物の区別がわからなくなってしまう難しさもあります。

状態が悪化すれば患者を投げ出す

 インターネット上で、「がん」「免疫療法」というワードで検索すると、クリニック免疫療法の宣伝サイトが所狭しと登場してきます。なぜ、これほどまで多く免疫療法を掲げるクリニックが乱立しているのでしょうか。このような光景は日本特有ともいえます。

 平たくいえば、「ラクをしてお金が儲かる」からです。そして、医師の資格さえあれば、誰でも参入できるということもあるでしょう。

 がんの手術や抗がん剤治療の素人であっても、それらのリスクをあおりながら、自称「がん専門医」を演じることが可能です。いくら名の知れた大学医学部を卒業していようが、海外の有名大学に留学の経歴があろうが、決してだまされてはいけません。しかし、心配で不安な患者さんは、そこに少なからずの希望や奇跡があると信じて近寄ってしまうわけです。

 こうしたクリニックで治療に関わっている医師の素性には、疑念がつきまといます。本当にがん治療を専門として真摯に患者さんと向き合ってきた医師など、ほとんどいないでしょう。それを示す事柄として、患者さんにもし何か問題が起きたとしても、適切な対処はしてくれません。素人が多いのでケアができないともいえます。したがって、最初は優しく甘い言葉で迎えてくれるのですが、状態が悪化すれば、患者さんを投げ出すわけです。

 実際に、そのような目に遭った患者さんらを筆者は多数見てきました。

【 前回を読む:がんの「ステージIV」イコール「末期」ではない 専門医が教える「最高の治療」「最低の治療」(1) 】

大場 大(おおば まさる)
1972年、石川県生まれ。外科医、腫楊内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院、東京大学医学部肝胆膵外科助教を経て、2021年に「東京目白クリニック」を開設。順天堂大学医学部肝胆膵外科非常勤講師も兼任。著書に「がんとの賢い闘い方―「近藤誠理論」徹底批判」(新潮新書)、「東大病院を辞めたから言える「がん」の話」(PHP新書)、「大場先生、がん治療の本当の話を教えてください」(扶桑社刊)などがある。

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